その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 思わず突き放すように言ってしまった声が響いた。あたりに誰もいなかったのが幸いだった。

 声が震えていたのは、怒っていたからじゃない。

 ただ、自分がどうしようもなくちっぽけに思えて、真澄の優しさすら素直に受け取れない自分が嫌になってしまっただけ。

 真澄の目が少し見開かれて、整った顔にほんのわずかに影が落ちる。自分のせいでこんな表情をさせてしまっているんだと思うと、ますますいたたまれなくなる。

 けれど真澄は何も言わずに、そっと一歩、距離を縮めた。

 「……っ、やめてください……ほんとに、今日は、」

 言葉が出ない。止めたかったのに、心が先に軋んでしまう。その瞬間だった。
 不意に、ぐいっと腕を引かれる感覚。

 「……っ」

 気づけば、真澄の腕の中だった。
 強引なようで、どこまでも静かで、そしてあたたかい抱擁。

 「っ……や、やめ……」

 抵抗する声は、すぐに弱くなった。逃げる先なんてなかった。
 抱きしめられて、ようやく気づいた。

 自分は、ずっと――こうしてほしかったんだ、と。

 
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