その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 その言葉に、鼓動が一瞬止まりそうになる。

 「だって――心を許した相手じゃないと、ああいうふうにならないだろ?」

 真澄はそれ以上何も言わず、ただ少しだけ口元を緩める。

 「晴れてお互いの気持ちも確かめられたわけだし」
 「なんかその言い方…」

 改めてそう言われるとどう反応していいのか分からない。
 頬を赤らめて俯くしかない澪に、真澄が肩にそっと触れる。

 「……同じテーブルのフランス人、澪のこと見てた」
 「え……?」
 「乾杯のあとも何度も視線を送ってた。気づかなかった?」
 「ぜ、全然…」

 そんなことよりも、とにかく粗相のないように、迷惑をかけないようにということで頭がいっぱいだった。

 「俺が隣りにいなかったら、話しかけられてたかもな」
 「いや、そんなわけ――」

 反論しようとした瞬間、真澄の手が伸びて澪の顎をすくった。

 そして、何も言わずに――唇が重なる。

 掠めるような触れるだけの、一瞬のキス。なのに時が止まったようだった。
 離れた唇の間から、真澄が低く吐息まじりに囁く。

 「見ていていいのは、俺だけだから」
 「ま、真澄さん……」

 言いかけた声がかすれて消えていく。

 腰に回された手にそっと引き寄せられて、ドレス越しの背中をなぞる指先が、甘く、痺れるほど熱を帯びた。

 そのまま抱き上げられてベッドルームへと連れていかれる。
 昨日の夜は端で寝ていたキングサイズのベッドに、もつれるように押し倒された。

 見上げると、薄暗い照明の灯りに照らされた真澄の顔は、いつもよりずっと艶っぽく見えた。

 「……そういう顔されるとあんまりもたない」

 囁きながら、指先がゆっくりと鎖骨のあたりを撫でる。

 「真澄さん、あの……」
 「……いやなら、やめる」

 そう言いながらも、彼の手は止まらない。代わりにどこか焦れたように澪の頬に触れる。
 
 「……や、じゃないです」

 自分から腕を伸ばして、真澄の首に絡めて引き寄せる。

 真澄の目が細まって――再び唇が触れたとき、もうどちらも躊躇わなかった。

< 88 / 127 >

この作品をシェア

pagetop