その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 ◇◇◇◇

 初めて夜を共にして、迎えた翌朝。

 帰りのフライトは十五時。空港までは余裕を見ても二時間かからない。澪は部屋の窓から外を見て、ふとつぶやいた。

 「……ボストンって名前は知ってたんですけど、どんな街なのか、あんまり知らなくて」

 その声に、自然と口が動いた。

 「じゃあ、少し案内するか?時間はあるし天気もいい。歩くにはちょうどいい距離だ」

 澪はぱっと表情を明るくして「行きたいです!」と小さく頷いた。

 ホテルを出て、赤い線をたどるように歩き始めた。レンガの道や歴史の染み込んだ建物。観光地といえばそれまでだけど――隣に彼女がいるだけで、景色はまるで違って見えた。

 「この道はフリーダムトレイルといって、アメリカ独立戦争ゆかりの史跡を結ぶルートだ」
 「へぇ……自由の道って、名前からしてかっこいいですね」
 「ここがオールドステートハウス。当時の政治の中心だった場所で――」

 歩きながら説明をしていると、澪が驚いたように目を丸くした。

 「真澄さん……歴史も詳しいんですね」
 「医師はけっこう歴史好きが多い。それにボストンは何度か来てるからな」
 「そうなんですね。でも、なんか不思議です。真澄さんとこうやって、街を歩くなんて」

 その言葉に、真澄の視線が彼女の横顔をとらえる。

 (……それはこちらの台詞だ)

 今までは、学会に来ても、こうして誰かと一緒に歩くことなんてなかった。

 (この景色が楽しいって思えたのは、隣りに澪がいるからだ)

 
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