(番外編集)それは麻薬のような愛だった
土曜日。
夕方に会社を退社した伊澄はコートを脱ぎソファーへと腰を下ろした。なんとか間に合ったと肩を落とし腕の装飾品の時計を外してスマホを開くと、通知が届いていた。
[19時頃に行くね]
雫の淡白なメッセージに時計を見ると時刻は既に18時過ぎ。それまでに諸々を済ませなければと、少しばかり焦りながら腰を上げた。
部屋の片づけと乾いた洗濯物の収納、風呂掃除などの一通り家事を終えクリーニングに出すためのスーツを確認してふと顔を上げた。時計を見れば時刻は19時の少し前になっていた。
伊澄の几帳面な性格を理解している雫は時間に遅れることはほぼない。そろそろ来るかと思い待っていたが、それから5分経過してもインターホンは鳴らなかった。
——何をしてるんだ
そう思ったのは怒りではなく不安。雫が連絡も無しに遅れることは初めてで、たかが5分だというのに伊澄は焦燥に駆られていた。
いよいよ見捨てられたか。そうした恐れが頭の中を過る。
散々彼女の気持ちを利用して弄んできたのだ、こうされても仕方ないくらいの事をしてきた自覚はある。
けれど律儀な雫が話も無しにフェードアウトすることは考えにくい。ならば来る途中に何かあったのだろうか。
季節は12月、外は既に暗い。
「…チッ!」
迎えに行くべきだった。そう思うと同時に体は動き伊澄は反射的にキーケースとスマホを手にしていた。
しかしその直後、待ち望んでいた音が部屋中に響く。
「!」
早足でドアホンを確認すると映り込んでいた姿に心底ほっとした。エントランスの解除ボタンを押し、玄関の鍵を開いて少し待つと足音が聞こえてきた為、伊澄は迷いなくドアを開いた。