(番外編集)それは麻薬のような愛だった
「わ!びっくりした」
マフラーに顔を埋め、白い息を吐く雫は何事もなくそこに立っていた。
「雫…」
「遅れてごめんね。忘れ物したの思い出して、コンビニに買いに行ってたんだ」
そう言って雫は何事もないように笑い、袋を掲げた。
「そしたらいちごのスイーツフェアしてたの。肉まんも買ってきたから、一緒に食べよう?」
「……」
人の気も知らないで。そう思うのに雫が無事に家に来てくれた安堵感の方が勝っているのだから、もうどうしようもない。
「…分かったから中入れ。寒いだろ」
「うん。ありがと」
促すままに雫は中に入り、ショートブーツを脱ぐ。底の厚い靴だったせいかフローリングに上がると雫の体は少し小さく感じた。そして奥へ進み、マフラーを解く雫に伊澄は手を差し出した。
「コート、かけとくから貸せ」
「うん。マフラーもお願いしてもいい?」
「ああ」
マフラーを伊澄へ手渡し雫がコートを脱ぐと、綺麗な鎖骨の見えるVネックの白いニットワンピースを着ていた。しかしその丈は膝上と短く、更に下に履く黒タイツは薄く透けていた。
それを目にした瞬間、伊澄はほぼ無意識に眉を寄せた。
「…お前、その格好で明日行くのか」
「ええ?まさか。こんな格好じゃ寒くて凍っちゃうよ。明日はちゃんとこの下にタートルネックのインナーと暖パン履くよ」
今日はここに来るだけだったから、と雫は笑う。
「いっちゃんも明日はあったかくしてね。冬の遊園地舐めたら後悔するよ」
「…分かってる」
言いながら、伊澄は再び安堵する。
オーバーサイズのワンピースは胸回りこそ隠せているが雫の細い脚が露わになって落ち着かない。その脚が柔らかく、手触りが良いことも知っている伊澄には暴力的な装いだった。しかもデニールの薄いタイツがまたそれを助長している。
相変わらず幼い顔立ちの雫ではあるが、メイクを覚えしっかり大人の女性になった。それもまた薄づきで、本来の可愛らしさは残しつつも桜色の頬だったり濡れた唇は妙な色気を放っている。
ずっと傍で見てきたはずなのに知らない女になっていくようで、伊澄は他所行きの雫を見る度に常に焦りを感じていた。