(番外編集)それは麻薬のような愛だった
「いっちゃんこそ、昨日遅かったんだしもう少し寝てたら?まだ紬も起きてこなさそうだし」
「いい。ここで雫のそばにいてえ」
「…いっちゃん?どうしたの…?」
らしくない伊澄の言葉に、雫は手にしていた鋏を置いて伊澄の顔を覗き込む。
「少し顔色悪いよ?どこか調子悪い?」
「体は平気だ」
「…体、は?」
「……起きたらお前が隣にいなくて、すげえ焦った」
素直に口にした伊澄の言葉に、雫の大きな瞳が更に開く。
「雫がとうとう俺に愛想尽かして出て行ったんじゃないかって、肝が冷えた」
「…どうしてそんなこと…」
「俺がお前にしてきたことを考えたら、当たり前だろ」
「……」
「今の幸せに甘えたらいけねえんだ、俺は。本来ならそんな資格も無いんだから」
「…いっちゃん…私は、」
「たとえ雫が許してくれたとしても…俺だけは、自分を許しちゃいけねえんだよ」
伊澄の顔が悲痛に歪む。己の過ちを諌め懺悔するように頭を落としていると、雫の小さくも温かい、優しい手が背中に触れた。
「いっちゃんは、今、幸せ?」
雫の優しい問いかけに、伊澄はゆっくりと顔を上げる。
「ああ。これ以上無いってくらい」
そう言い、伊澄は雫の手を取る。
「…可愛い娘がいて、何よりも愛しい雫が居る。俺には過ぎた幸せだって、毎日思ってる」
「いっちゃん…」
「雫と紬は俺の全てなんだよ。お前達が居なくなったら生きた屍も同然だ。何の意味もない」
全て嘘偽りなく本心だ。重過ぎて引かれただろうか。
そう思いはしたが、雫は一瞬驚いた顔をしたものの、すぐに頬を染め困ったような、だが嬉しそうな顔を見せた。