(番外編集)それは麻薬のような愛だった
「…こんな早朝から何してんだよ…」
冬の夜明けは遅く、まだ外は薄暗い。よもや紬の夜泣きで眠れなかったのだろうかと別の心配が過ったところで、雫はなんでもない事のように言った。
「お手洗いで起きてね。そしたら目が冴えちゃったから整理を進めておこうと思って」
そう言った雫の言う通り、ソファ前のテーブルの上は物が溢れていた。
「だからって何もこんな夜明け前からやらなくていいだろ。引越しの準備なら俺だってやるし、紬が寝てるうちにちゃんと休んどけよ」
「大丈夫だよ。それに、これは紬が寝てる時に片付けておきたかったから」
「これって…」
よく見ればそれらは雫の趣味に使っていた物たちだった。裁縫の為の道具だったり、材料である布だったり小物だったり。
雫の手にも小さな服が握られており、どうやらそれを解体しているようだ。
「バラすのか、それ」
「うん。アメリカに行く前に少し断捨離しておかないと」
どうやら再来月に控えた伊澄の転勤の為の作業だったらしい。確かに釦や針など危ないものも多く、最近なんでも口にものを持っていくようになった紬のいる空間では作業できない気持ちも分かる。
それでも雫がお気に入りのぬいぐるみ達の為に作ったものを解体しているのに、伊澄の胸の内に複雑な感情が落ちた。
「せっかく作ったんだろ。いいのか」
「うん。もう少し落ち着いたら新しいもの作る予定だから」
「…そうか…」
雫は器用に糸切り鋏で縫い付けてあったボタンを外し、丁寧に布から切り離していく。
それを眺めつつ伊澄は雫から腕を解き、回り込んで雫の隣へと腰を落とした。