(番外編集)それは麻薬のような愛だった
雫はただ、伊澄の存在がある事を喜ぶ。もっと望んでもいいはずだ、どんな我儘だって、雫の為なら叶えてやれる。
それだというのに雫はひとつだって望まず、ただ今ある幸せで満足だと言う。
なんて健気で、愛らしいんだろう。
たまらない愛おしさに包まれた伊澄は、静かに雫の体へ身を寄せた。
「…このまま少し、こうしてていいか。邪魔はしないから」
伊澄からのお願いに、雫は嫌な顔ひとつせず寧ろ嬉しそうに笑う。
「私がいっちゃんを邪魔に思うはずないよ」
「…そうか」
心地いい雫の温かさと甘い香りに癒される。
雫は一度置いた衣装と鋏を取ると、再び作業を再開する。パチン、と軽快な音を響かせ取れたボタンを丁寧に取っていく。
布地から切り離されたそれらは、ボタンだけが収納されているケースに入れられる。さすが趣味というだけあって様々な大きさや種類のものがあり、それぞれ綺麗に小分けされて収められている。
だがその一角にひとつだけある、小さな巾着が目についた。
ボタンしかないその中でそれは異色の存在感を放っており、何故そこだけと、さすがに違和感を覚えた。
「なあ、それ…」
「え?」
何気なく問いかけ、指で指す。伊澄の言いたい事を察した雫は「あ…」と声を漏らすと、ゆっくりとそれを手に取った。
そのまま雫が巾着の口を開き逆むけると、中からコロンと見覚えしかないものが落ちてきた。
「…それ…」
雫が手にしたそれは、かつて2人が通っていた高校の制服についていたボタンだった。
「…持ってて、くれたのか」
「……うん」