死に戻り聖女は兄の願いを叶えたい〜気づいていないけど、無償の愛に包まれています〜
再会
「お兄様!」
自分の姿で勇ましく魔獣と戦っている兄が視界に飛び込んでくる。アグネスはいま、自分が兄レオン姿であることも忘れて思わず声に出してしまった。
「えっ?」
仲間の騎士が戸惑った顔をしたが、もう気にならなかった。
会いたくて、会いたくて、話したくて、どうしようもなかった兄がすぐそこにいる。
さっきのお出迎えの時は、ヴィクター殿下と一緒で話しかける隙も目を合わせることさえもできなかったが、いまは走って傍に行って、手を伸ばせば手の届くところにいる。
死に戻る前、自分を庇い刺客の刃に血を吐きながら倒れた兄。
そんな兄のそばに這いつくばってでも行こうとしてアグネスも力尽きた。
だから死に戻ったいま、ずっと兄に直接伝えたい言葉があった。
アグネスは自分で気づいたときにはもう兄に向って足が動いていた。
「お兄様!お兄様!おにい…さま!」
「アグネス!霧の魔法を!」
ノアが懸命に叫ぶ。
仲間の騎士が呆気にとられている間に、レオン姿のアグネスを追ってノアも走り出した。
レオン姿のアグネスは無我夢中で走りながらを兄を呼ぶ。目頭が熱くなり、だんだん視界が歪んでくる。
近くで魔獣が暴れているし、騎士達の怒号が聞こえるし砂埃が舞っている。でもそんなものはひとつも目に入らないし、聞こえもしない。
自分にいま見えるのは兄だけ。
ただ、ノアが「霧の魔法を!」と叫ぶ声だけは聞こえた。
涙で歪む兄の元に走りながら左手の人差し指に嵌めている銀の指輪を外し、それと同時に心を込めて呟くように「ネプラ」と唱える。
兄の姿で走っていた自分が、金色の長い髪が走る邪魔になりだし、一瞬で旅装姿の細く小柄な自分に戻ったことがわかる。
団長達とともに魔獣と戦っていたアグネス姿のレオンは近くで自分を呼ぶアグネスの声が聞こえたように思った。
こんな時に幻聴か?いよいよ走馬灯なのか?と脳裏によぎった時だった。
そんな天候の予兆もなかったのに、突然目の前が真っ白になり、辺りが濃霧に包まれた。
「「!!!」」
その場にいた誰もがなんだ?と言ったまま、状況を理解することはできない。
あんなに暴れていた魔獣さえも、なにか聖なるものを感じとったのか大人しくなった。
(この霧はアグネスの魔法だ!)
レオンは懐かしい優しさに包まれたように感じた。
「お兄様っ!」
濃霧のなか、愛しい妹の声がすぐそばで、間違いなく後ろから聞こえた。幻聴ではない。
慌てて振り向くと会いたくて、会いたくて、会いたくて、どうしようもなかった愛する妹が涙で頬を濡らしながら旅装姿で立っていた。
アグネスに気づいたアグネス姿のレオンが慌てて剣を下すと、それを見たアグネスが走り寄ってきた。
お互いが手の届くところまで来ると、歓喜で声にならず瞳と瞳で会話を交わし、どちらかともなく手を伸ばすと、強く強く手を取り合った。
ふたりのアグネスの小さな手が重なり、握り合う。
少しの間、見つめ合い痛いほど手を握り合ってから、アグネスが切なさそうに自分の姿をした兄の左手の人差し指に視線を落とすと、嵌めてある銀の指輪を優しく愛おしそうにさすり、ゆっくりとその指輪を外した。
瞬く間にアグネス姿のレオンは騎士姿のレオンに戻った。
「アグネス」
「お兄様」
ようやく言葉になる。そして、どちらからともなく抱き締め合う。
アグネスは兄の胸の中で、兄のはっきりとした鼓動を確認するとまた涙が溢れてきた。
「お兄様、私のためにありがとうございました」
「当然だろ。お前は俺のかけがえのない大事な妹だ。それだけだ」
「うん」
兄の優しい声を聞くとまた涙が溢れる。
気づけば傍らでノアが、ふたりを柔らかい表情で見守っていた。
レオンはアグネスを抱きしめている手を緩め、アグネスの頭を少し撫でると、ノアと向き合った。
「ノア、ありがとう。いま、幸せか?」
「もちろんだ」
「そうか、良かった」
ノアの噛み締めるようその言葉を聞いたレオンが少し泣きそうな表情をして、堪えるように微笑んだ。
「さあ、いまから交代だ!」
レオンが意を決したように力強く言うと、ノアもアグネスも深く頷いた。
「アグネスはもしかしてこの魔獣と戦えるぐらいには魔法が使えるようになったのかな?」
少し企むかのようにレオンがアグネスに聞く。
「お兄様はなぜ、わかったの?」
不思議そうにするアグネスを見ながら、レオンはうれしげに「そうだと思った」と目を細めた。
「ノア、行くぞ!アグネスも援護を頼む!」
アグネスは兄とノアが剣を構えたのを確認すると、霧の魔法を解除した。
霧が無くなると目の前に、いまにも炎を吐きそうな魔獣がいた。あと他に3体いるのが確認できる。
他の騎士たちもそれぞれの魔獣と少し距離を取りつつも剣を構え、魔獣の攻撃に備えている。
「アグネス、どの魔獣でも炎を吐いたらとにかく抑えてくれ。俺たちは魔獣にとどめを刺しにいく。出来るか?」
「大丈夫よ。お兄様」
レオンの指示にアグネスは余裕ある微笑みで答える。
「ノア、一緒に行けるか?」
「俺はお前の相方だぞ。当然だ!」
ノアとレオンはお互いを見て、ニヤリと笑った。
まるでお互いがこの時を待っていたかのように、レオンとノアは息ぴったりで、魔獣に切り込んで行く。
そして、その傍らでアグネスは魔獣の炎を抑える。
この作戦が功を奏して、レオンとノアで1頭の魔獣を瞬く間に倒すことが出来ると、それを見ていた騎士たちにどよめきの声が上がった。
「倒し方はわかったか?レオンと俺に出来るんだ!お前たちも必ず出来るはずだ!弱気になるな!ここにいる聖女アグネスが炎を抑えてくれる!なにも心配することはない!それに俺らが援護に入るから心配するな!」
ノアが声を張り上げ騎士達を鼓舞する。
アグネスは急にそこに自分の名前が出てきて、照れるやら慌てるやらで目を白黒させていたが「アグネス、ここで微笑んで!」とノアに耳打ちされて、その通りに微笑むと次は騎士達は歓声を上げ、どんどんと士気が高まっていく。
「アグネス嬢は私が守るから、ふたりは思う存分楽しんで!」
息を切らしてセレーネが駆けてきた。
「聖女アグネスがこの戦場に立つなら、侍女の私はここにいて当然でしょ?」
レオンがセレーネに安全なところに行けと言う前に、セレーネは口角を上げて得意げに悪い顔をした。
自分の姿で勇ましく魔獣と戦っている兄が視界に飛び込んでくる。アグネスはいま、自分が兄レオン姿であることも忘れて思わず声に出してしまった。
「えっ?」
仲間の騎士が戸惑った顔をしたが、もう気にならなかった。
会いたくて、会いたくて、話したくて、どうしようもなかった兄がすぐそこにいる。
さっきのお出迎えの時は、ヴィクター殿下と一緒で話しかける隙も目を合わせることさえもできなかったが、いまは走って傍に行って、手を伸ばせば手の届くところにいる。
死に戻る前、自分を庇い刺客の刃に血を吐きながら倒れた兄。
そんな兄のそばに這いつくばってでも行こうとしてアグネスも力尽きた。
だから死に戻ったいま、ずっと兄に直接伝えたい言葉があった。
アグネスは自分で気づいたときにはもう兄に向って足が動いていた。
「お兄様!お兄様!おにい…さま!」
「アグネス!霧の魔法を!」
ノアが懸命に叫ぶ。
仲間の騎士が呆気にとられている間に、レオン姿のアグネスを追ってノアも走り出した。
レオン姿のアグネスは無我夢中で走りながらを兄を呼ぶ。目頭が熱くなり、だんだん視界が歪んでくる。
近くで魔獣が暴れているし、騎士達の怒号が聞こえるし砂埃が舞っている。でもそんなものはひとつも目に入らないし、聞こえもしない。
自分にいま見えるのは兄だけ。
ただ、ノアが「霧の魔法を!」と叫ぶ声だけは聞こえた。
涙で歪む兄の元に走りながら左手の人差し指に嵌めている銀の指輪を外し、それと同時に心を込めて呟くように「ネプラ」と唱える。
兄の姿で走っていた自分が、金色の長い髪が走る邪魔になりだし、一瞬で旅装姿の細く小柄な自分に戻ったことがわかる。
団長達とともに魔獣と戦っていたアグネス姿のレオンは近くで自分を呼ぶアグネスの声が聞こえたように思った。
こんな時に幻聴か?いよいよ走馬灯なのか?と脳裏によぎった時だった。
そんな天候の予兆もなかったのに、突然目の前が真っ白になり、辺りが濃霧に包まれた。
「「!!!」」
その場にいた誰もがなんだ?と言ったまま、状況を理解することはできない。
あんなに暴れていた魔獣さえも、なにか聖なるものを感じとったのか大人しくなった。
(この霧はアグネスの魔法だ!)
レオンは懐かしい優しさに包まれたように感じた。
「お兄様っ!」
濃霧のなか、愛しい妹の声がすぐそばで、間違いなく後ろから聞こえた。幻聴ではない。
慌てて振り向くと会いたくて、会いたくて、会いたくて、どうしようもなかった愛する妹が涙で頬を濡らしながら旅装姿で立っていた。
アグネスに気づいたアグネス姿のレオンが慌てて剣を下すと、それを見たアグネスが走り寄ってきた。
お互いが手の届くところまで来ると、歓喜で声にならず瞳と瞳で会話を交わし、どちらかともなく手を伸ばすと、強く強く手を取り合った。
ふたりのアグネスの小さな手が重なり、握り合う。
少しの間、見つめ合い痛いほど手を握り合ってから、アグネスが切なさそうに自分の姿をした兄の左手の人差し指に視線を落とすと、嵌めてある銀の指輪を優しく愛おしそうにさすり、ゆっくりとその指輪を外した。
瞬く間にアグネス姿のレオンは騎士姿のレオンに戻った。
「アグネス」
「お兄様」
ようやく言葉になる。そして、どちらからともなく抱き締め合う。
アグネスは兄の胸の中で、兄のはっきりとした鼓動を確認するとまた涙が溢れてきた。
「お兄様、私のためにありがとうございました」
「当然だろ。お前は俺のかけがえのない大事な妹だ。それだけだ」
「うん」
兄の優しい声を聞くとまた涙が溢れる。
気づけば傍らでノアが、ふたりを柔らかい表情で見守っていた。
レオンはアグネスを抱きしめている手を緩め、アグネスの頭を少し撫でると、ノアと向き合った。
「ノア、ありがとう。いま、幸せか?」
「もちろんだ」
「そうか、良かった」
ノアの噛み締めるようその言葉を聞いたレオンが少し泣きそうな表情をして、堪えるように微笑んだ。
「さあ、いまから交代だ!」
レオンが意を決したように力強く言うと、ノアもアグネスも深く頷いた。
「アグネスはもしかしてこの魔獣と戦えるぐらいには魔法が使えるようになったのかな?」
少し企むかのようにレオンがアグネスに聞く。
「お兄様はなぜ、わかったの?」
不思議そうにするアグネスを見ながら、レオンはうれしげに「そうだと思った」と目を細めた。
「ノア、行くぞ!アグネスも援護を頼む!」
アグネスは兄とノアが剣を構えたのを確認すると、霧の魔法を解除した。
霧が無くなると目の前に、いまにも炎を吐きそうな魔獣がいた。あと他に3体いるのが確認できる。
他の騎士たちもそれぞれの魔獣と少し距離を取りつつも剣を構え、魔獣の攻撃に備えている。
「アグネス、どの魔獣でも炎を吐いたらとにかく抑えてくれ。俺たちは魔獣にとどめを刺しにいく。出来るか?」
「大丈夫よ。お兄様」
レオンの指示にアグネスは余裕ある微笑みで答える。
「ノア、一緒に行けるか?」
「俺はお前の相方だぞ。当然だ!」
ノアとレオンはお互いを見て、ニヤリと笑った。
まるでお互いがこの時を待っていたかのように、レオンとノアは息ぴったりで、魔獣に切り込んで行く。
そして、その傍らでアグネスは魔獣の炎を抑える。
この作戦が功を奏して、レオンとノアで1頭の魔獣を瞬く間に倒すことが出来ると、それを見ていた騎士たちにどよめきの声が上がった。
「倒し方はわかったか?レオンと俺に出来るんだ!お前たちも必ず出来るはずだ!弱気になるな!ここにいる聖女アグネスが炎を抑えてくれる!なにも心配することはない!それに俺らが援護に入るから心配するな!」
ノアが声を張り上げ騎士達を鼓舞する。
アグネスは急にそこに自分の名前が出てきて、照れるやら慌てるやらで目を白黒させていたが「アグネス、ここで微笑んで!」とノアに耳打ちされて、その通りに微笑むと次は騎士達は歓声を上げ、どんどんと士気が高まっていく。
「アグネス嬢は私が守るから、ふたりは思う存分楽しんで!」
息を切らしてセレーネが駆けてきた。
「聖女アグネスがこの戦場に立つなら、侍女の私はここにいて当然でしょ?」
レオンがセレーネに安全なところに行けと言う前に、セレーネは口角を上げて得意げに悪い顔をした。