恋焦がれ
 いや、それを悟ったとして、僕が菊田さんを嫌いになる理由になんてならない。

 僕はオタクは嫌い、苦手だなんていう前時代的な考えを持ち合わせていないわけだし、何の問題もない。

 ただ、少しイメージと違っていただけだ。

 でも、そんなところでさえ愛しいと思えるのはおかしいのだろうか。

「またたくさん話してしまったわね……ごめんなさい」

 またもやしょんぼりとした顔をする菊田さん。先ほどと同じくほんのりと頬が染まっている。

「いやいや全然、話を聞けて嬉しいよ」
「ほんと? ならよかったわ」

 菊田さんは胸を撫で下ろしてまた同じようにモカジャバを一口口にした。

 沈黙が走る。

 分かってはいるんだ。菊田さんが僕の言葉を待っているって。

 でも、本当に申し訳ないのだけれど、僕はその言葉を持ち合わせてはいないのだ。

 知ったかぶりで僕が知っている有名な小説を挙げても、きっとその小説の話でボロが出る。

 やっぱり小説はあまり読まないってことを正直に告げるしかないのか。

 僕は腹を決める。

 きっと菊田さんは嘘をつかれたと分かったとき、ショックを受けて僕に対していつものように接してくれなくなるだろう。勿論週に一度の読書会もおじゃんだ。

 何より、菊田さんにこれ以上嘘を重ねたくない。

 これから始まる僕らの読書会はいい気持ちで進めたい。

 全部本当の話を話して、でも本を読みたいと、菊田さんと毎週ここで会いたいと、はっきり伝えよう。

 そう考えてみれば簡単なことだ。

 何を今まで僕はうだうだと悩んでいたのだろう。

 きっと、菊田さんなら許してくれる。

 僕しかいないと言った、菊田さんなら——。

「あれっ、兄さんじゃん。って女の人!? めっちゃ可愛いんですけど!?」
「……恵……」

 僕たちが座るソファ席にひょこっと顔を覗かせた僕の妹に、僕はせっかく覚悟を決めたのに、と思うと同時に深いため息を無意識に吐いてしまうほど、安堵していた。

「貴女が清水くんの妹さん?」
「は、はい! 清水恵と申します!」
「清水くんと仲良くさせてもらっています、菊田紬です。よろしくね」
「_@ええめっちゃ可愛いっ、もしかして彼女!?_」
「……違う」
「ええ本当に?」
「本当だって」

 さっきはありがたいと感じたけれど、やっぱりそんな存在ではないかもしれない。

 僕はまた深くため息をついた。
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