(改稿版)小児科医の恋愛事情 ~ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ~
こういう空気感・・ね。
昔、似たようなフレーズを聞いたことがあるな。

「西島先生の周りって、いい意味で緊張感がなくてホッとするんです」

「それって・・褒めてます? 何となく反対の意味で、穏やかすぎてつまらないって言われたことがありますけど」

苦笑いした俺に、彼女は慌てたように首を横に振った。

「そんなことありませんっ。私は褒めてますから。
片頭痛って、緊張感も原因だと思ってるんです。話を聞き間違えないように・・とか、翻訳を間違えないように・・って、いつも張りつめているから。
でも、西島先生といると、なんだか緩む気がして」

捉え方って、本当に人それぞれなんだな・・と思う。

『祐一郎ってドキドキさせる危うさみたいなものもないし、つまらないわ』

そんなふうに言って、去った女性もいたから。


「わぁ、美味しそう!」

セイロの蓋を開け、湯気の向こうでニコニコと喜ぶ彼女を見て、俺まで嬉しくなる。

「熱いうちに食べましょう」

ふたりともアルコールは飲んでいないのに、彼女の言う『空気感』が後押ししたのか、食事をしながら少しずつお互いのことを話していった。

「西島先生は、どうして小児科を選択されたんですか? なんとなく珍しい気がして」

「珍しい・・そうですよね。特に開業医だと、小児科専門の男性医師はほとんど見かけないかもしれないです。
僕が小児科に決めたのは、研修医の時に、初めて天国に見送った患者さんが子どもだったから・・だと思います。
あの頃は本当に何もできなくて、話し相手になったり、辛いときに手を握ったり身体をさすったりするくらいだったのに、それでも僕を頼ってくれたのが嬉しかった。
だから、彼が旅立った時に決めたんです。ひとりでも多くの子どもを助けたい・・って」



< 19 / 120 >

この作品をシェア

pagetop