(改稿版)小児科医の恋愛事情 ~ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ~
彼女は、いつのまにか涙をこぼしていた。

「え・・? あ、これ、良かったら使ってください・・」

俺はとっさにポケットからハンカチを出し、彼女に渡す。
普段は遠慮がちな彼女も、すっと受け取って目元にあてた。俺に涙を見られたくなかっただろうか。

「すみません・・余計なことまで話したかな・・」

小さくつぶやいたつもりが耳に届いたらしく、彼女は首を横に振った。

「やっぱりいいな・・って。西島先生みたいな人がそばにいてくれたら、みんな安心しますよ。だから・・私も・・」

泣き笑いを浮かべた彼女の瞳からは、まだ少し涙がこぼれていて、思わず頬に手を伸ばして指ですくった。

「・・っ」

ピクッと身体が反応した彼女を見て、しまった!と思った。

「すみません! いつも子どもにもやっているので、つい・・」

そう口にしつつも、本当にそうなのか単なる言い訳なのか、自分の中でも区別がつかなかった。
無意識に手が伸びてしまったから。

「あの・・平嶋さん。後ろ向きで他のお客さんからは見えないし、涙がおさまるのをゆっくり待ったらいいですよ。普段から常に緊張しているなら、涙で少し解放されると言うし」

「・・はい。どうしてだろう・・西島先生には、初めて会った日から弱いところばかり見せてしまって・・。ご迷惑をおかけして、申し訳ないと思っています」

俯いた彼女に、かける言葉が見つからない。
だから、というわけではないものの、俺はテーブルに置かれていた彼女の左手をそっと握っていた。



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