(改稿版)小児科医の恋愛事情 ~ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ~
これも・・だ。
不安そうにしている子どもの手をそっと握るのも、普段からやっていることだ。

「私・・いつの間にか、先生の患者さんになってしまったみたいですね」

「えっ」

「でも・・。私は西島先生が小児科の先生だと知っているからいいですけど、知らない女性だったら絶対に勘違いしますよ・・」

彼女は俺の手が重なった部分から、すっと自分の手を引き抜く。
目元を見ると、もう涙は止まっていた。

「さ、食べましょう。この翡翠(ひすい)餃子、皮の色もすごく綺麗」

雰囲気を変えようと次々に点心を口に運ぶ彼女を見て、俺は一度手にした箸を置く。

「勘違い・・って、どんな勘違いだろうか・・。もしかしたら僕も今、少し勘違いしている気がして・・」

そう言った俺に、彼女も食べる手を止める。
ふぅ、と小さく息を吐き、ジャスミンティーをひと口飲んでから言った。

「西島先生が・・・・好意を持って接してくれているかもしれない・・っていう、勘違いです」

「好意・・。そう・・だよね、やっぱりそうだよな・・」

ひとり言のようにつぶやく。

自分でも、良く分かっていなかった。
無意識に彼女に伸ばした手が、普段の医師としての気持ちから出たものなのか、男としての気持ちから出たものか。

無意識なのは、普段そうしているからだと考えるのが自然だけれど、やはり彼女に対してはそうじゃない。

こんなふうに、無意識にでも触れたいと感じる女性は初めてで、それは男としての俺が彼女を特別な感情で見始めていることの表れだと思った。



< 21 / 120 >

この作品をシェア

pagetop