(改稿版)小児科医の恋愛事情 ~ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ~
「野中先生! すみません、こちらお願いします!」

「あー、はい。・・祐一郎、茉祐子のこと頼む!」

俺が戻ると同時に大翔はスタッフに呼ばれ、そう言い残して急患の処置に入った。

『茉祐子のこと頼む』・・か。

俺は、ひとまず通路から移動させようと救急外来の待機室に向かった。
持ってきた毛布で上半身をくるみ、ひざ掛けを下半身にかける。
身体がまだかすかに震えていたから、脈拍を確認するために緩く手を握った。

「まだ痛みますか? もしかして・・何か処方されている薬をお持ちですか?」

彼女は頷き、上着のポケットの中からカプセルを取り出した。

ボルタレン・・。
強めの鎮痛剤だ。

「少しだけ、ひとりにしても大丈夫ですか? 薬を飲むための白湯を持ってきますから」

穏やかに話しかけたつもりだったけれど、まだひとりになるのが不安なのか、彼女は俺の手を握ったまま離さなかった。

困ったな・・。
この状態で強引にひとりにできないし、誰か・・頼み事ができるスタッフがいれば。

俺はこの病院の職員だけれど、日勤の時は滅多に救急外来病棟に来ないから顔見知りがほとんどいない。

「あら? 西島先生・・どうかされました?」

俺を知っている夜勤スタッフがちょうど出勤してきて、声をかけてくれた。

「あの・・薬を飲ませたいんですが、ぬるめの白湯をもらうことはできますか?」

「はい、今お持ちしますね。少し待っていてください」

良かった・・。
白湯を受け取り、彼女に薬を飲ませて効き目が現れるのを待っていた。

薬を飲ませるために一旦離した手を、もう一度握る。
徐々に震えが止まり、体温も戻ってきたように感じられ、ひどくなる前に対処できて良かったと心から思った。



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