(改稿版)小児科医の恋愛事情 ~ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ~
出勤途中で、大翔がすぐ前を歩いていることに気づく。

「大翔」

「おー・・祐一郎か・・」

珍しく鼻声で、風邪でも引いたのだろうか。

「どうした大翔、風邪か?」

「んー・・・・昨日の夜、現場に駆り出されてさ。外の処置が長かったから冷えたのかもしれない」

そういえば、帰りがけに近くの工事現場で事故があったと聞いた気がする。
駆り出されたということは、負傷者が多かったのだろう。

「薬、出してやろうか?」

「いいねぇ。頼むよ、祐一郎先生。子供用のあまーいヤツがいいな」

「ハハハ、後で持ってくよ」

「俺はともかく、祐一郎先生はどうなんだ? 効く薬はあるのかー?」

ポンと肩を叩かれた。
彼女が・・大翔に話したのか?

「何があったか知らないけどさ。最近、いつも遠くを見てるだろ。声かけようと思って、やめたことが何度かある。
俺で良かったら話聞くぜ。あ、もちろんカウンセリング料もらうけどな」

「大翔・・」

「美味いチーズを見つけたんだよ。確か、祐一郎のところにいいウイスキーあったよな。俺、今日は早く上がれるから、一緒にどうだ?」

グラスを傾ける大翔の仕草に、思わずクスッと笑う。
たまには、大翔と飲むのも悪く無い。

「大翔、酒飲むなら薬は飲めないぞ。月並みだけどアルコール消毒といくか。ウイスキーとのコラボなら、甘味でチョコレートも仕入れるか」

「ウイスキーに合うチョコレートか・・。こないだ誰かが話してたの聞いたな・・何だったかなー」

男同士の他愛もない会話に、すっと気持ちが軽くなった。
ひとりで考え過ぎていたのかもしれない。

全てを話せるかどうかはなんとも言えないものの、大翔のカウンセリングを俺は素直に受けることにした。



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