(改稿版)小児科医の恋愛事情 ~ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ~
ピンポーン♪

両手に保冷バッグを下げ、大翔が家に来た。

「これがチーズで、こっちがチョコレートだ」

「サンキュ、あがれよ。俺も10分くらい前に帰ってきたから、まだ何も用意できてないけど」

「用意なんて大げさな・・グラスと氷だけだろう?」

「いや、今夜はとっておきの年代モノを出そうかと思ってさ。いいグラスと丸い氷で飲みたくて」

俺は普段飲んでいるものより、ランクがふたつほど上のものをリビングのテーブルに置く。
そもそも親父がウイスキー好きで、気に入ったものを俺にも勧めてくれるのだ。

「うぉマジか。これバーで飲んだら、1杯いくらするんだよ」

「カウンセリング料といい勝負じゃないか?」

グラスに丸い氷をそっと入れ、ゆっくりとウイスキーを注いで大翔に渡す。
カラン・・と、氷の揺れるいい音がした。

「すげー綺麗な琥珀色だし、音もいいよな・・」

そう言ってグラスを傾ける大翔を見ながら、俺はチーズとチョコレートをガラスの器に盛ってテーブルに出した。

「祐一郎、茉祐子と何か話したか?」

「いや・・まだ何も話してない。なんて聞けばいいかわからないし、タイミングも失った感じで」

「そうか・・」

「下手に話したら、彼女を問い詰めてしまいそうで怖い。冷静に話す自信が無いよ」

グッと喉にウイスキーを送り込む。
琥珀色の液体は、喉元を熱くして静かに落ちていった。

「冷静って、そんなの無理じゃないか? だって、ふたり付き合ってるんだろう? 他の男の影が見えてるのに、冷静に話すってどういうことだよ。問い詰めればいいじゃないか」

大翔にそう言われて、押さえつけていた心の蓋が少し・・開いた。



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