(改稿版)小児科医の恋愛事情 ~ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ~
「そうだけどさ、だからって彼女ひとりを責めるのは違うだろ・・」

「祐一郎、茉祐子は患者じゃない。対等な恋人なんだろう? 責めるのは・・まぁ違うとしても、常に穏やかに、何も言わずに黙っていることが優しさか?」

「優しさ・・?」

「もう少し踏み込んでみたらどうだ。祐一郎なら、俺みたいにカッとなったりしないだろうしさ。茉祐子と話してみろよ」

カラカラ・・と、氷だけが残ったグラスを大翔が俺に差し出した。
立ち上がらないところを見ると、まだ飲むつもりなのだろう。

俺はテーブルに置いたボトルから、大翔のグラスと自分のグラスにウイスキーを継ぎ足す。

「このところさ、その影が、もう影じゃなくなってきてるんだよな・・」

「なんだそれ・・。もしかして、鉢合わせたのか?」

「いや・・。『茉祐子』と呼ぶ声とか、話している後ろ姿とか、正体が見えないことに余計イライラする」

そのイライラをぶつけて、嫉妬心丸出しで彼女を抱いたことを思い出す。
ベランダに視線をずらし、少し気持ちを切り替えようと夜空を見上げた。

「へぇ・・。なんか祐一郎のそういう顔、ちょっとゾクッとする」

「は? からかうなよ」

「からかってないさ。だって、普段そういう『男の顔』をしないだろ。子どもたちに穏やかに接する西島先生には見られない、男の顔だ。抱かれたくなるかも」

「大翔、いいかげんにしろよ。だいぶ酔ってるんだろ」

俺は苦笑いしつつ、少しクールダウンさせた方がよさそうだと思い、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出して大翔に渡した。
一気に半分くらい飲み干したかと思えば、おもむろに帰り支度を始めている。

「ん? 大翔帰るのか?」

「ああ、明日もあるしな。それに、祐一郎が穏やかなだけじゃなく、クールに嫉妬心燃やしてるところも見れたから」

「なんだよそれ。まぁ、また飲みに来いよ」

そう声をかけると、『おやすみ・・』と右手をヒラッとさせて出て行った。



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