(改稿版)小児科医の恋愛事情 ~ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ~
普段は見れない、男の顔・・か。

そういえば、大翔に彼女と付き合ってることを言ってあっただろうか。
それ前提の会話だった気もしたけれど・・。

ま、いいか。

明日は休みだし、読みたかった本を読もうと仕事部屋に入ると、ふと彼女用のデスクの上に何かが置かれているのが目に入った。

「あー・・。商売道具だろ、これ」

カバーを開けて中を見ると、使い込まれた電子辞書だった。
届けなきゃいけないと思い、上着を手にする。

もちろん、気まずさはある。
だからといって、彼女の仕事に影響のありそうな状態を見過ごすほど子供じゃない。

俺はそれ以上考えずに表通りでタクシーを拾い、彼女のマンションに向かった。

腕時計を見ると、21時半。
もう帰宅しているだろうし、寝てもいない時間だろう。

向かっていることは特に知らせなかった。
いなければ電子辞書だけポストに入れて、そのまま帰ろうと思ったから。


ピンポーン♪


インターホンを押してしばらく待っても反応が無い。

まだ仕事か?
それとも、風呂に入っている?
いや、もしかして・・あの男のところか?

ドアの前であれこれ想像していると、カチャ・・と静かにドアが開く。

「え・・?」

出てきた彼女は、メガネにパジャマ姿でストールを羽織っていた。

こんな時間にパジャマ姿・・?

ハッとした。

「茉祐、どうした。どこが辛い?」

「・・ちょっと・・具合が悪くて・・」

「片頭痛か? 薬は飲んだ?」

開いたドアを引いて中に入り、彼女の額や首筋に触れて状態を確認する。

「なんだか身体が熱いの・・。頭は痛くないんだけど・・」

「そうか。早くベットに戻ろう。体温計はどこにある? 持って行くから先に行っ───」

リビングに入ろうとした俺の手を、彼女が力なくつかんだ。



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