過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜
回診が終わり、朝の空気がようやく落ち着いてきた頃、病室の扉がコンコンとノックされた。

「失礼します、大原さん」

ゆっくりとドアを開けて入ってきたのは、柔らかな笑顔の女性看護師だった。

ネームプレートには「遠藤」と書かれている。

「さっき先生からお話があった検査について、改めてご説明と同意書のご案内に伺いました。ご不安なこと、ありませんか?」

ベッドの上で体を起こしていた雪乃は、一瞬だけ口をつぐんだあと、小さく首をかしげて言った。

「……全部、不安です」

そう言った自分の声が、思ったよりもまっすぐで、驚いた。

以前の自分なら、きっと「大丈夫です」と笑って答えていただろう。
誰にも迷惑をかけたくなくて、無理してでも平気なふりをして、いつも通りに装っていた。

でも——。

今は、それが誰のためにもならないって、少しずつわかってきた。

黙っていても、苦しさは消えないし、誰も魔法のように気づいてはくれない。

伝えること、さらけ出すことは、弱さじゃない。

むしろ、自分を守るために必要な強さだと、ようやく思えるようになった。

遠藤は、雪乃の素直な答えに少し驚いたように目を丸くしてから、ふっと目元を和らげた。

「……そうですよね。不安になりますよね。
検査のときは、検査室の看護師が必ず付き添いますからね。
それと、ご不安が強いことはきちんと伝えておきますね」

そう言って、遠藤はあたたかい声でほほ笑んだ。

どこか姉のような、親しみを感じさせるその空気に、少しだけ胸の重さがやわらぐ。

それでも——言葉にできない不安が胸の奥に残っていた。

神崎先生が言っていた「心臓の感染」が本当なら、きっと入院は長引く。

先生は一時的に治療費を立て替えると言ってくれたけれど、雪乃の中では、それは「借りているだけ」でしかない。

(元気になったら、働いて返さなきゃ)

そう思う気持ちが、胸の奥でひっそりと重くのしかかっていた。

申し訳なさ、情けなさ、そして——この先どうなるのかという漠然とした怖さ。

それでも、今はきっと――目の前の不安から、逃げずに向き合うときなのだと、自分に言い聞かせるように雪乃は小さく深呼吸をした。
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