過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜
昼前、外来の合間を縫って神崎は医局のドアを開けた。
資料が山積みのデスクに背を預けてPCを睨んでいた滝川医師が、気配に気づいて顔を上げる。
「神崎。どうした?」
「滝川先生、少しご相談したい症例がありまして。時間、大丈夫ですか?」
「ああ。今ちょうど手が空いたところ。何?」
神崎は手に持っていたカルテのコピーを差し出し、端的に話し始めた。
「25歳、女性。大原雪乃さんという患者です。三日前、キャバクラ勤務中に意識を失って救急搬送。既往にVSD——心室中隔欠損がありますが、小児期以降、治療歴も受診歴もなく、放置されていたようです」
「なるほど……それで?」
「当初はアルコール性の失神と思われましたが、心電図で不整脈を確認、経過観察のために入院。昨日までは微熱程度でしたが、今朝39.4℃まで上昇。咳もあり、呼吸も浅く、頻脈が持続しています。聴診で前胸部に雑音、血液培養を今朝採取しました」
滝川はカルテを一瞥し、眉をひそめる。
「感染性心内膜炎(IE)疑いか。外からの心エコーは?」
「一昨日行いましたが、明確な所見はなし。ただ、VSDと未治療歴がある以上、感染巣が心内に形成されている可能性は高いと考えています。午後にTEE——経食道心エコーでの確認を予定しています」
「なるほど。血培の結果が出るまでには少し時間がかかるからな。TEEは正解だろう」
「そこでお願いがありまして……もし可能であれば、午後のTEE、立ち会っていただけませんか?」
滝川は少し考えるように口元に手を当てたあと、あっさり頷いた。
「構わないよ。午後の外来はキャンセル分だけだし。念のため、弁のべジテーションの有無と大きさを二人で確認しておいた方がいいな。特にVSD持ちとなると、万一の手術適応も視野に入れなきゃならないかもしれん」
神崎は深く頭を下げた。
「ありがとうございます。正直、少し不安で……。見た目はまだ若く元気そうに見えるんですが、全体的に状態が不安定で。もし感染性心内膜炎なら、長期治療が必要になると思います。彼女、社会的なバックグラウンドも複雑でして……」
滝川は神崎の言葉を最後まで聞いた後、落ち着いた口調で言った。
「神崎、お前が診るって決めた患者だ。ちゃんと向き合えば、それでいい。悩んだら、いつでも声かけろ」
その言葉に神崎は小さく笑って頷いた。
「はい。午後、検査室でお待ちしています」
「了解。ちゃんと昼飯食っておけよ」
「……それは先生に言われたくないですね」
そんな軽口を交わしながら、神崎は医局を後にした。午後の検査に向けて、頭を切り替えるように、深く息を吸った。
資料が山積みのデスクに背を預けてPCを睨んでいた滝川医師が、気配に気づいて顔を上げる。
「神崎。どうした?」
「滝川先生、少しご相談したい症例がありまして。時間、大丈夫ですか?」
「ああ。今ちょうど手が空いたところ。何?」
神崎は手に持っていたカルテのコピーを差し出し、端的に話し始めた。
「25歳、女性。大原雪乃さんという患者です。三日前、キャバクラ勤務中に意識を失って救急搬送。既往にVSD——心室中隔欠損がありますが、小児期以降、治療歴も受診歴もなく、放置されていたようです」
「なるほど……それで?」
「当初はアルコール性の失神と思われましたが、心電図で不整脈を確認、経過観察のために入院。昨日までは微熱程度でしたが、今朝39.4℃まで上昇。咳もあり、呼吸も浅く、頻脈が持続しています。聴診で前胸部に雑音、血液培養を今朝採取しました」
滝川はカルテを一瞥し、眉をひそめる。
「感染性心内膜炎(IE)疑いか。外からの心エコーは?」
「一昨日行いましたが、明確な所見はなし。ただ、VSDと未治療歴がある以上、感染巣が心内に形成されている可能性は高いと考えています。午後にTEE——経食道心エコーでの確認を予定しています」
「なるほど。血培の結果が出るまでには少し時間がかかるからな。TEEは正解だろう」
「そこでお願いがありまして……もし可能であれば、午後のTEE、立ち会っていただけませんか?」
滝川は少し考えるように口元に手を当てたあと、あっさり頷いた。
「構わないよ。午後の外来はキャンセル分だけだし。念のため、弁のべジテーションの有無と大きさを二人で確認しておいた方がいいな。特にVSD持ちとなると、万一の手術適応も視野に入れなきゃならないかもしれん」
神崎は深く頭を下げた。
「ありがとうございます。正直、少し不安で……。見た目はまだ若く元気そうに見えるんですが、全体的に状態が不安定で。もし感染性心内膜炎なら、長期治療が必要になると思います。彼女、社会的なバックグラウンドも複雑でして……」
滝川は神崎の言葉を最後まで聞いた後、落ち着いた口調で言った。
「神崎、お前が診るって決めた患者だ。ちゃんと向き合えば、それでいい。悩んだら、いつでも声かけろ」
その言葉に神崎は小さく笑って頷いた。
「はい。午後、検査室でお待ちしています」
「了解。ちゃんと昼飯食っておけよ」
「……それは先生に言われたくないですね」
そんな軽口を交わしながら、神崎は医局を後にした。午後の検査に向けて、頭を切り替えるように、深く息を吸った。