過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜
検査室に入ると、雪乃の身体はすでにこわばっていた。

薄暗い照明、無機質な機械音、そして中央に鎮座する検査台。
すべてが彼女にとっては「非日常」であり、「恐怖の装置」にしか見えなかった。

案内してくれた看護師に促されて、検査着のまま横になり、横向きの体勢になる。
マスクの下、彼女の呼吸は浅く早く、喉の奥が乾く。

神崎が検査室に入ってきた。

「お待たせ。雪乃さん、大丈夫?」

その声に思わず反応して、雪乃は顔を上げた。

「……無理って言ったのに」

「うん、覚えてる。でも、なるべく楽に終わらせるから。今は体の中で何が起きてるかをちゃんと調べたい。原因がわかれば、ちゃんと治療できるから」

淡々とした声。
けれどそこに、彼女の不安をなだめようとする優しさがこもっていた。

その後ろから入ってきた男性医師を見て、雪乃の目が少しだけ見開かれる。

「こちら、うちの循環器の先輩の滝川先生。今回の検査、僕と一緒に確認してもらうから」

滝川はマスク越しでも笑みがわかるような柔らかな眼差しで、雪乃に軽く頭を下げた。

「こんにちは、大原さん。ちょっと怖いかもしれないけど、すぐ終わるからね。よろしくお願いします」

雪乃は小さくこくりと頷いたものの、緊張のせいで顎がピクピクと震えていた。

喉にゼリーを塗られる瞬間、彼女の身体がビクリと跳ねた。

「ごめんなさい……無理かも……」

「大丈夫、鎮静剤入れるから。少し眠たくなるよ」

神崎の声が再びしたとき、雪乃は目だけで彼を見る。

「起きたら、全部終わってます?」

「うん、起きたときには検査も終わってて、僕も横にいるから」

「ほんとに、苦しくない……?」

「苦しくないように、する。怖い思いは、させない」

一拍あってから、雪乃は目を閉じた。

「……信じます。今回は」

鎮静剤が点滴から入れられ、徐々にまぶたが重くなっていく。
その様子を確認して、神崎がモニターの前に立った。

滝川が小声で訊いた。

「ずいぶん信用されてるな」

神崎は苦笑しながら答える。

「時間はかかりましたけどね。ようやく、です」

「だったら、ちゃんと診てやらんとな。責任重大だぞ」

「……ええ、ほんとに」

画面に現れた心臓の断面図に、二人の目が集中する。

神崎の目が鋭くなり、滝川が画面を指差す。

「……これ、見えるか? 三尖弁のあたり、ふわっと浮いてる。べジテーションだな」

「間違いないですね……。予想、的中です」

「IE確定だな。感染性心内膜炎……」

緊張の中で始まった検査。
だがその先には、彼女の未来を左右する真実があった。

神崎は静かに、そして強く思った。

絶対、治す。今度こそ、ちゃんと守る。
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