過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜
ぼんやりと、意識が浮上してきた。

まぶたの裏がほんのり明るくて、誰かの気配がそばにあることを感じる。

目を開けると、白い天井がゆっくりと視界に広がった。

「……大原さん、目覚めました?」

声の主は看護師だった。
遠藤という名前だっただろうか。

「……終わったんですか」

「はい、検査は無事に終わりました。今はまだ薬が残ってると思うので、ゆっくりで大丈夫ですよ」

そう言いながら、そっと水を差し出してくれる。その優しさに、雪乃は胸の奥がじんとした。

少しずつ覚醒していく頭で、「怖い思いをしたかもしれない」と思いながらも、喉に引っかかった不安はまだ、どこにも行っていない。

どれくらい時間が経っただろう。

個室に戻され、再びベッドに横になっていた雪乃の元へ、ノックの音と共に神崎が現れた。

彼はいつものスクラブ姿で、少しだけ疲れた顔をしていた。

「お疲れさま。ちゃんと起きられてる?」

「……はい。なんか、変な夢見ました」

「副作用みたいなもんだね。でもちゃんと検査、がんばったよ」

神崎は傍らの椅子に腰かけると、カルテのファイルを手にしながらも、まず彼女の表情を確認するように、じっと見つめた。

「……結果、ですよね?」

雪乃がそう訊くと、神崎は一度だけ深く頷いた。

「うん。やっぱり、心臓に感染が起きてた。感染性心内膜炎、って病気。心臓の中に、細菌がくっついて炎症を起こす。今回の発熱や動悸、全部そのせいだ」

雪乃は目を伏せた。

「……やっぱり、そうだったんだ。なんか、ずっと自分の身体がおかしい気がしてた」

「感覚、当たってたね。疑ってよかった」

「また入院が延びるってことですか?」

神崎は少し間を置いてから、静かに答えた。

「うん。少なくとも、数週間は点滴で抗菌薬を使う必要がある。治療そのものは、時間はかかるけど、ちゃんとやれば治せる。ただ……」

「ただ?」

「早期に見つかってよかったって意味では、本当に運がよかった。放置してたら、命に関わってたかもしれないから」

雪乃はその言葉に、一瞬息をのんだ。

「……怖いですね。そんな病気、自分がなるなんて思ってなかった」

「怖いと思うのは、当たり前。でも、怖いって感じられるってことは、ちゃんと生きたいって気持ちがあるってことだから。それ、大事にして」

神崎の言葉に、雪乃の目がまた潤んだ。

「……先生、検査のとき、言ってましたよね。苦しくないようにするって」

「うん」

「ちょっと、苦しかったです」

その言葉に神崎は一瞬黙り、それからふっと笑った。

「そうだね、ごめん。でも、ちゃんと頑張った。偉かったよ」

その声の優しさに、雪乃の涙がついにこぼれ落ちた。

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