過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜
次の日の午前中の遅い時間、病室のドアが軽くノックされる音がした。

「失礼します、大原さんですね。ソーシャルワーカーの岸本と申します」

入ってきたのは、落ち着いた雰囲気の女性だった。

グレーのカーディガンに控えめなアクセサリー。

白衣ではないが、清潔感のある装いが彼女の柔らかな印象とよく合っていた。

そのすぐ後ろから神崎がひょこっと顔を出す。

「岸本さん、お願いします。じゃ、僕はこれで」

「はい、お任せください」

神崎がすぐに退室すると、岸本はベッド脇の椅子に静かに腰を下ろした。

「お身体の具合、いかがですか?」

「……まだ少し熱っぽいですけど、だいぶ落ち着きました」

「そうですか。それはよかったです。今日はですね、入院の継続と医療費について、いくつかご相談できればと思って伺いました」

雪乃は少しだけ身を起こすと、毛布を引き寄せてから小さく頷いた。

「はい……お願いします」

岸本は、手元のタブレットとメモ帳を確認しながら続ける。

「まず、健康保険証についてなのですが、現在はお持ちではないと聞いています。再発行の手続きについて、市区町村の役所で行う必要があります。ご家族の方と連絡は……」

雪乃は首を横に振った。

「今は……頼れる家族はいないです」

「そうでしたか。では、ご本人での手続きが難しい場合、私たちの方で代行申請できる場合もあります。病院から役所に連絡を取り、書類をお渡しするか、郵送で手続きする形です」

「それ、お願いできますか……?」

「もちろんです。では、あとで申請に必要な情報を少しだけ確認させてください。あと、治療が長期になる場合、医療費の助成や減額制度を使える可能性もあるので、あわせて申請の準備を進めていきましょう」

「……ありがとうございます。そういうの、自分じゃどうしていいかわからなくて」

岸本は優しく微笑んだ。

「大丈夫です。そういう時のために私たちがいますから。どんな小さなことでも、不安なことがあったら教えてくださいね」

雪乃は、心の奥で少しだけ緊張がほどけるのを感じた。

けれど神崎が以前自分に言っていた「治療費は立て替えてもいい」という話や、彼との個人的な関係については、言わなかった。

それは、きっとここで話すべきことではない。
そんな気がした。

岸本はそのあとも丁寧に話を進め、必要な情報を確認すると、雪乃に「無理しないでくださいね」と声をかけて退室した。

病室に再び静けさが戻ると、雪乃は一つ、深く息をついた。
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