こちら元町診療所
「部長が頼まれたなら部長が行ったら
 いいんじゃないですか!?
 私は嫌です。」


『そ、そんな‥‥で、で、でもね?
 先生が中原さんからしか受け取りたく
 ないって言うものだから。』


‥‥‥はぁ!!!?


申し訳なさそうに差し出された
朝刊を勢いよく奪うと、手で思いっきり
そこを握りしめる


私からしか受け取らないー!?

読みたいならここに取りに来れば
いいんじゃない!?ここまで
歩いて30秒もかからないでしょう!?


私は医事課事務員であって、
新聞配達員ではない!!


「‥‥部長」

『ん?‥な、なんだい?』

「その珈琲‥今週好きなだけ飲ませて
 いただきますからね!?」

『うん‥‥ええっ!?そんなぁ
 好きなだけなんて酷い!!』


私が早く出勤してるのは、
気持ちの切り替えが下手だから、
医事課でのんびりしながらも、これから
始まる診療時間のシュミレーションを
頭で考える為だ。


それなのに‥‥
自律神経は乱れイライラ度が増して
しまうのも全部‥ぜんぶ彼がここに
来てしまったからだ


穏やかな雰囲気が好きだったこの場所が
アイツのせいでこんなにも一転してしまうなんて‥‥。


シャッ!!!


医事課から診察室へ続く通路を歩きながら辿り着いた第一診察室のカーテンを
勢いよく開けると、デスクに朝刊を
思いっきり叩きつけた


『フッ‥‥おはよう‥‥靖子。
 朝からとっても元気だね?』


「ふん!おはようございます。
 叶先生‥‥名前で呼ぶのをやめてと
 何度も言ってますよね?
 いい加減念書書かせますよ?」


彼が座ってる場所だけ、まるで
八方からライトアップされているのでは
ないかというほど光り輝いていてるのか
眩しすぎて見れない‥‥ッ


カルテを打ち込んでいたのか、
長くてスラッとした指をキーボードから
離すと、クルッと身体をこちらに向けて
長い足を静かに組んだ。


全くさ‥‥‥同じ人類なのに、
どんな親なのか見てみたいものだ。

こんなハイスペックな容姿を持つ人が
形成される遺伝子があるなんてさ。


『呼び方を変えるつもりはないよ。
 だって『靖子』で合ってるしね。』


ヴッ‥‥‥‥

彫刻のような美しい顔で微笑まれ、
思わず息苦しくて後退りする


本人は至ってこれが通常運転なだけで、
悪気はないらしいが、相変わらず話は
噛み合わなくて項垂れてしまう


「はぁ‥もう戻ります。朝から無駄に 
 疲れたくありませんから。」


今日も忙しそうなのに、こんなところで
朝から貴重なパワーを減らしたくない。



『靖子』


「ッ‥だから‥次呼んだら‥ッ!!」


『‥‥呼んだら?‥‥‥‥どうする?』


えっ!?
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