こちら元町診療所
両目に涙が溢れて頬に流れ落ちるのを
手でサッと拭うと、勢いよくカーテンが
開けられた。


『大丈夫か?』


ドクン


前がまた見えないほど涙がまた溢れ、
泣きたくないのに、この人の声を
聞くだけで涙腺が緩んでしまう


カーテンをシャッと閉められると、
周りを気にしつつなのか、先生の長くて
少しだけ冷たい指が私の涙を拭った。


『何も心配しなくていい。それに
 何も考えなくてもな。貧血だな‥。
 爪の色も眼球の色も良くない‥‥。
 点滴するから少し寝てるといい。
 診察がまだあるからまた後で来る。』


先生‥‥‥


手が離れそうになった事で不安を
感じたのか、白衣を咄嗟に掴んでしまい、慌てて離した


仕事中なのに‥‥私‥何して‥‥


『フッ‥‥‥後で抱き締めてやる。』


えっ?


私がして欲しいことが伝わってしまった
のか、手を取られてそこに軽く唇を
触れさせた後、先生は診察に戻った。


私はズルい‥‥‥。
待たせておきながら、
あの腕に包まれたいと思うなんて‥‥。




『中原さん点滴しますね。
 ん?顔が赤いですが暑いです?』


「ッ!だ、大丈夫です‥すみません、
 忙しいのに。」


倒れておきながら、先生の事を
考えてしまっていた事に恥ずかしさと
情けなさを痛感し、掛け布団に
潜りたくなった。


大丈夫‥‥‥。
診察が終われば彼は帰るし、もう
会うことはないはず‥‥。


ここに今先生が居なかったら、こんなに
もすぐ落ち着きを取り戻せなかったから
後でちゃんとお礼を伝えたい。


貧血もあり眩暈が落ち着くまで
ベッドの上で休ませてもらい、静かに
なった処置室に休憩時間に入ったのだと
気付く頃、カーテンが静かに開けられた


『起きてたんだな。
 点滴終わりそうだから抜くよ。』


「ありがとうございます。
 あの‥‥ ご迷惑をおかけして
 すみません。」


チラッと私を見たものの、手慣れた
手つきで点滴の処置を施すと、ベッド
横の椅子に先生が腰掛けた。


‥‥‥疲れてる?

それはそうだろうな‥‥‥。
なんてったって月曜日は1週間の
うちで1番忙しい日なんだから。


『‥‥水谷 洋太。
 彼が靖子のことを探してたけど、
 体調不良に関係ある?』


ドクン
< 55 / 120 >

この作品をシェア

pagetop