こちら元町診療所
ここに先生が居なかったら、洋太と
どうなっていただろうと考えるだけで
怖い‥‥


甘えるべきじゃなくても、その香りに
涙が溢れ、両手で先生のワイシャツに
しがみついてしまった。


『あなた、ここよ先生ですよね?
 あなたに俺と靖子の何が分かんの?
 俺たちはッ』

『あーすみません。興味ないので。』

『はっ?』


抱き締めていた腕の力が緩められ
たのでそっと上を見上げると、
綺麗な顔がフッと小さく笑い、そのまま
私の顔に影が落とされた。


「ンッ‥‥」


啄むような甘いキスに驚くと、すぐに
離れた先生がまた笑ってから洋太の方に
視線を移した。


『生憎、目の前にいる彼女にしか
 興味はないので、あなたとの過去は
 どうでもいいんです。それでも
 話したければどうぞ。私たちは
 この続きをここでさせてもらいます
 ので。』


「えっ?先生‥ンッ」


冗談かと思いきや、本当にまた唇が
塞がれてしまい、ワイシャツを握る
手に力が入ってしまう。


『ッ!やってられるかよ!!』


えっ!?洋太‥‥‥ッ!!


今にも殴りかかってきそうな勢いで、
こちらに迫る彼だったが、何かを
見たのかその場で立ち止まると、
視線を逸らし背を向けて立ち去った。


何?‥‥何が起こってるの?


「ンッ!‥先せ!!」


本当に洋太の事など気にせずキスを
続ける先生を押し退けると、息も絶え絶えに先生を見上げた。


「洋太ッ‥いえ‥彼に何かしました?」


『ん?‥‥何も?‥‥強いて言えば、
 靖子とのキスを邪魔されそうだった
 から睨んだくらいかな。』


睨む!?
それだけで洋太が怯んで去ったとでも?


とにかく先生に危害がなかった事は
良かったものの、どさくさに紛れての
長いキスに答えてしまった事を思い出す


『暫くは心配だから、荷物を纏めて
 俺の家に来ないか?』


「えっ!!?そんな‥大袈裟ですよ。」


『大袈裟?‥‥声を荒げて怒鳴り、
 靖子を待ち伏せてた相手だよ?
 君のことを好きな相手からしたら、
 そんな危険な状態で1人にする方が
 気が気じゃない‥‥。』


先生‥‥


『暫く居て、本当に何もなければ、
 家に戻るといい。お姉さんには
 俺から連絡するから。』


「‥‥‥分かりました。
 ご迷惑をおかけしますが、よろしく
 お願いします。」
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