こちら元町診療所

「先生のこと好きな人なんて沢山
　いらっしゃるんですから、その人
　達のをもらったらどうです！？」


先生が来てから、院内の女性達が
みんな朝早く来て自分を綺麗に
磨いてるのを知ってる？


静かで穏やかだった診療所が、　
先生1人の存在でどれだけ大きく
変わったこと知ってる？


『他なんていらない。
　靖子のだから食べたかったんだけど
　ね‥‥でも約束だから行くよ。
　その前に‥‥』


えっ！？

長い指が私の顎を捉えると、私の口を
開けた途端何かを口に入れ椅子から
立ち上がった。


『甘いもの欲しかったんだろ？
　卵焼きのお礼だよ。ご馳走様。』


私の手を取りそこに握らせた箱に
目を落とすと、途端に口の中に甘さが
広がっていく


爽やかな笑顔を残して立ち去る
先生の足音が聞こえなくなると、
口の中に残ったアーモンドをカリっと
噛み砕いた


‥‥‥何しに来たんだろう‥‥。

100名近くの診察を終えてクタクタ
なら、こんなところに顔を出さずに
少しでも休憩したらいいのに‥‥


「‥‥甘」


卵焼き一切れのお礼に似つかわしくない
高級そうなチョコレートの箱


返すタイミング無くなっちゃったな‥。

だってこんな美味しいチョコレート
初めて食べたから勿体無いなんて
思えてしまうじゃない？



『今日は忙しくて延期していた
　叶先生の歓迎会だから、みなさん
　17時までにしっかり仕事を終えて
　遅れないように。』


次の週の金曜日

1週間の疲労も溜まり、本音を言えば
早く帰って寝たいところだが、歓迎会
のことをすっかり忘れていて本気で
落ち込んだ


叶先生が来て一月以上経っちゃって
たけど、日々の忙しさで歓迎会どころ
じゃなかったからなぁ‥‥


『靖子さん、久しぶりに飲めますね。
　楽しみです。』


「浜ちゃんは弱いんだから程々にね？
　今日は多分荒れそうだなぁ‥‥。」


主役が主役なだけに、女性陣が
取り囲む様子がラクに想像できてしまう


まぁ‥私には関係のないことだから、
行くなら沢山食べて飲んで元を取らせて
もらいますけどね‥。


引き出しに入れていた箱を取り出すと、
一切れそれを口に頬張った。


『わぁ、そのチョコ買ったんですか？
　今人気で1時間以上並ばないと
　買えないってテレビで見ました。』


ええっ！？


美味しいおいしいとは思っていたけど、
これってそんなに有名なチョコなの！？