こちら元町診療所
卵焼きの対価にもならないチョコを
全部食べ切ってしまった後で、やっぱり
いらないと言えばよかったと後悔する


「浜ちゃん‥‥‥美味しいのよ。」


『ですよね?私も今度並んでみます。』


なんとか笑顔で答えたものの、
事務員にこんな高価なものを渡した
先生に心の中で溜め息を溢す。


これって‥‥何かお返しするべき?

急すぎて用意出来ないから、
とりあえずタイミングを見てお礼くらい
伝えないとな‥‥


やる事を一つひとつ片付けてから、
何とか定時ギリギリに仕事を終えると、
医事課の戸締りをしてから、更衣室に
向かった。


ガチャ


「失礼します‥ヴッ!!」


疲れが溜まった体に、この化粧品の
香料と香水の甘い匂いはキツイ‥‥ッ!


これじゃあ着替えたくても、その前に
気分が悪くなってしまいそうだ。


いつもなら耐えられるのに、疲れからか
目眩がしそうになり、一旦更衣室を
出てから医事課に戻ることにした。


場所は分かってるから、少し遅れて
行っても問題はないはず‥‥。


あの香りを思い出すだけで胸焼けしそうな気持ち悪さに、待合の椅子に腰掛ける
と、目の前の診察室のドアが開いた


『靖子?どうした?顔色が悪いね‥』


「先生‥‥気にしないでください。
 それより歓迎会‥主役が遅れたら
 ダメですよ?早く行かないと‥‥」


就業時刻を過ぎているのに、こんな
時間まで仕事をしていたのだろうか?


夕方でも爽やかさと輝きを失わない
オーラに苦笑いが出つつも、気持ち悪さ
が増していく‥‥


最近忙しさからいい加減な食事に
偏ってたから胃が痛かったけど、
大したことないなんて放っておいたから
かな‥


『横になれるか?』


えっ?


『診察するから。』


ええっ!?


「ッ‥いいですから‥はぁ‥‥
 疲れてるだけなんで早く歓迎会に‥」

『あのね、体調悪い人を無視して帰る
 医者になった覚えはない。
 今は医者として指示してるだけだ。』


いつものヘラヘラとした感じとは
打って変わって真面目な表情に、
一瞬体が強張るものの、待合の
長椅子に横たわった。


怒ったのだろうか‥‥?
あんな風に話す先生の一面に、
いつもみたいに言い返せる訳もなく
何故だか目頭が熱くなってゆく


もうやだ‥‥‥
メンタルが弱くなってる証拠だ‥‥
< 7 / 120 >

この作品をシェア

pagetop