それでも、あなたを愛してる。【終】

温もり

☪︎


「─うまくやったね、叶、悠依」

依月が光の玉となり、現実に向かった頃。
少年こと巡(メグル)はそう言って笑った。

「ギリギリだったけど、コントロール術を少し身につけられて良かったよ。少しでも人間界で生活する以上、神力爆発?みたいなものを起こしたら、あの街の半分は消し飛んでしまうかもしれないからね」

そう。そもそも、運命のあの夜に、刹那が彼女を自分の空間に連れ込んだのは、全部、その被害を起こさないためだ。

刹那は自らの空間の中で、依月が落ち着くまで待って、依月が溜め込んでいる全ての発散を目論んでいた。

そして、依月は刹那の考えるまま、溜まっていた全てを吐き出すように爆発を起こし、封印を解く。

封印が解かれた後の依月にとって、これまでの感情喪失の状態を考えると、世界の全てが鋭くて、簡単に受け入れきれない状態になった。

そんな世界は、今の依月にとって生き辛いことだろう。

「あの子が、封印を破るほどの辛い思いをしなければ……なんて、そう願ってしまうのは親の勝手ですね。巡」

「そうだね、叶。─僕は親になったことないから分からないけど、でも、それを願ってしまうのが、親という生き物だと思うよ」

「そうですかね」

「そうだよ。それに、依月は封印のせいで、上手く感情を出せない日々を送ってきたけれど、それに救われた場面も間違いなくあって、何より、あの子は契と出逢えているから。契はどんな依月でも愛して、いっぱい愛を注いできたから。依月は心が満たされる感覚を知っているはずだよ」

彼女は今代の、生贄だ。
神に捧げられる供物。
その神は、僕の半分でもあるそれは、今、地上で自由に生活しているというのにね。

─馬鹿馬鹿しい、無駄に残った風習。
それをどうか乗り越えて、彼らには新たな歴史を紡いで欲しい。

「契くん、依月をすごく愛してくれていたの。あの子を抱き締めた時、見えたあの子の記憶。全部に彼がいたわ。いつも笑ってて、依月は本当に大切にしてもらっていたことが伝わってきて、すっごく嬉しかった!」

「悠依が言うってことは、かなりなんだね。─僕達の運命に巻き込んで、ふたりには本当に辛い思いをさせてしまった。─それでも」

それでも、あの瞬間は、あれが最適解だった。

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