それでも、あなたを愛してる。【終】
『会いたい……、』
『うん』
『契に……会いたい。でも、会えないっ』
会ったら多分、戻れなくなる。
本格的に、もう今の時点で戻れないかもしれないけど、彼の前に立ってしまったら、その時が最後。
どちらの結末になっても、私は。
『……だから、まずはお兄ちゃんの元に帰ってあげて。それで、二人でいっぱいお話をしてね』
少年に、頭を撫でられる。
『君がここに紛れ込んだのは、ずっと多くの神々の空間の中にいたのに、急に人間界に来たからだよ。人間界で言う、時差ボケ?みたいな。だから、君が願えば、すぐに帰れる』
─そうか。帰るかどうかは、依月次第で……。
『早く帰りなさい、依月』
『私達はずっと、ここから見守っているわ』
都合の良い夢だろう。幻想だろう。
でも、古いたった1枚の写真でしか知らない両親を見ていると、夢だなんて思いたくなくて。
だから、依月は彼らの前で腕を伸ばした。
─契に甘えるとき、契を甘やかすとき、していた仕草を見ると、両親は目を丸くしたあと、優しく微笑んで、依月を強く抱き締めてくれた。
『愛しているわ、私達の可愛い子』
『どうか、お兄ちゃんのことも宜しくね』
『っ、……うんっ』
不思議話だ。きっと、全てが幻想だ。
それでも、私はこの記憶をなくしたくない。
忘れたくないよ。両親の顔も声も。
─それが、正しいのかは知らないけれど。
『またね』
そう微笑むと、ふたりは交互に額にキスをしてくれた。少年は頭をひと撫でしてくれて、依月は瞼の裏に両親の顔を焼き付けながら、目を閉じた。