それでも、あなたを愛してる。【終】



(お父さんとお母さんの話をした時、お兄ちゃんの顔、少し曇っちゃった……)

最初は、どうして?と思ったけど、そっか。
二人の自我が残っているということは、ふたりは成仏出来ていないってことだ。
そりゃあ、兄の顔が曇っても仕方がない。

両親が亡くなり、兄も人間として死にかけたとある夜の事件。
依月は赤子だったこともあり、何も覚えていない。
けど、それが凄惨な事件だったことは知ってる。

朱雀宮家にあった本に、過去の事件のひとつとして記されていたのを見たことがある。
まさか、自分の家のこととは思わなかったけど。

(卒業して、追い出されたあの夜まで、自分は氷見の人間だと思っていたからな……)

─もう、現実のことは何も分からない。
離れる前までは、契の妻になるために勉強をしていたから、どこの家がどんな動きをしたとか、そういうことも全て把握していたけど。

封印?が解かれたあとから、歴史書が読めなくなってしまった。ニュースも読めない。胸が痛くて、涙が溢れて、それが嬉しいニュースであれ、悲しいニュースであれ、感情の消化が出来ず、自分の中で呑み込めないし、整理出来ない。

そんな自分は契に相応しくないし、戻るべきじゃない。

(そもそも、“本物”との繋ぎだったんだもの……)

そう言われて、育った。
そう言われて、躾られた。

殴られ、蹴られ、食事は質素で、ない日もあって、掃除洗濯炊事……その他まで全部、依月は逆らうことなく、行ってきた。

(それが、これからの職探しに生きるかな……)

高校卒業資格は捨てる。
名前ごと捨てて、戸籍も何もかも無くす。
調べたところによると、7年もすれば、行方不明者は死亡扱いになる。
あと、約4年……隠れて静かに生きて、全部捨てて、やり直そう。

契の元には、もうこんな身体じゃ戻れないから。

彼は私の未来にはいないけど、彼と同じ空の下では生きていられる。

彼と同じ時間で、歳をとっていける。
それだけで、とても幸せなこと。だから。

< 107 / 186 >

この作品をシェア

pagetop