それでも、あなたを愛してる。【終】
第六章☪︎君の願い、僕の覚悟

眩しい場所





「─……綺麗」

刹那改め悠生─兄の横で、依月は呟いた。
見ているのは、大型ショッピングモールの広場で開かれていたシーグラスの作品を取り扱う、POPUPショップの作品達。

「カップに、アートに、ピアスに、髪留め……色々なものがあるね。凄いな」

「ね。…お兄ちゃんは、海を見たことある?」

「本物の?」

「うん、本物」

「……あるよ。子供の頃にね」

少し言いづらそうな兄は、本当に優しい人なのだろう。気にしないで、という思いを込めて、依月は笑った。

「そっか。私はないんだ〜」

これまでの時間を取り戻すように、他愛ない話をしながら、何も考えず、自由に歩き回る日々。

金銭は兄がどこかでなにかして手に入れている。
怖くて、どうやって手に入れているのかは聞けていないが、この兄のことだから、真っ当な方法であることは間違いないと思う。

「海にも、行ってみる?」

「…うん」

穏やかな日常。
心を満たすように、優しさをくれるお兄ちゃんはいつまで、こちらの世界にいられるのだろう。

わかっている。このままじゃいられないこと。
─分かっているけど。

「依月、ピアスか何か買う?」

「ううん。ピアスは穴が空いてないから……それに、穴は契に開けてもらう約束をしていたから、開けないままがいいの。それまで、イヤリングもつけないって決めていたから、耳飾りは要らない。─でも、このアートは欲しいかも」

飾ってあった、シーグラスで作られたお花のアート。太陽の下で輝く、恐らく、向日葵の絵。

とても素敵で、見ているだけで元気が出てくる。

依月は体質的に夏は苦手だ。
でも、夏という概念は昔から好きだった。

契に似ているからなのか、安心する。

「じゃあ、それをお迎えしよう。─すみません」

悠生がレジに行く姿を見送った依月は、POPUPショップの近くにあった椅子に座り、のんびりと周囲を見渡した。

家族連れがほとんどで、皆笑っている。
優しくほわっとする胸の奥。
心が満たされているのか。

(あの日、目覚めたら知らない場所で、お兄ちゃんが泣いていた……)

お父さんとお母さんに会った、不思議な夢。
目が醒めると、知らないマンションの一室に置かれたベッドにいて、依月のそばで、兄である悠生が泣いていた。

『お兄ちゃん……?』

その一言で、バッと顔を上げた刹那─悠生は複雑そうな顔をして、

『……おかえりっ、依月!』

強く、抱き締めてくれた。

その後、二人でいっぱい話した。
とりあえず、依月は現実に帰ってきてから、5日は眠っていたらしい。

お兄ちゃんの判断としては、向こうと違う時の流れに、人間の身体の何もかもがついて行かず、混乱してしまったことが原因のひとつだと考えられるという。

他には、依月が見たという夢に現れていた少年が、依月に干渉したから、という説も。

どちらにせよ、ちゃんと目覚めることは出来たから、依月はあまり気にしていなかった。

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