それでも、あなたを愛してる。【終】
数代前の当主と、その妻の大恋愛物語。
男の方から結婚を申し込むべき、結婚当日までは顔を合わせるなんてしない、みたいな時代に、大恋愛の末に結婚することになったふたり。
その際に、奥さんとなったその人は言った言葉。
それこそが、件の女が言った言葉だった。
四季の家には、各家に三種の神器と呼ばれるものが置いてある。どんな時に使うものなのかは公表されておらず、その形も各家で違う為、実際の形は家のものしか知らないはずなのに、だ。
あの女は『指輪を求めた』。
それは、三種の神器のひとつだ。
どこから情報が漏れた?
依月でさえも知らなかったことを。
……ああ、違うな。
あの頭が空っぽそうな女は、そんなことは知らずに契に望んだのかもしれない。
ただ単純に、契の妻になる権利を欲したのかも。
「落ち着け……」
怒りは、ろくな事にはならない。
ああ、でも、身を焼くこれは止められない。
『契にとって、依月は安定剤なんだよ』
ああ、そうだ。そうだよ。安定剤だ。
彼女がいれば、気分が落ち着くんだ。
彼女がいるから、俺は。
「依月が、いなければ……」
きっと自分は、定められた役目を果たせない。
彼女が全ての人生だった。
彼女が全ての人生だ。
彼女がいない未来なんて考えたことがなかった。
だから、だから。
─夜が明け、太陽が顔を出していく。
暑い暑い、うだるような夏が近付いてくる。