それでも、あなたを愛してる。【終】
◇
「─おい、ちゃんと捨ててきたか?」
聞こえてきた声に、男はため息をつく。
何かを確認する下卑な声は聞くに絶えないが、それも【役目】の為ならば、仕方が無いと……ああ、そうだとしても耐え難い。
「勿論さ。あんな所に置き去りにされたら、ひとたまりもないだろうな」
「これまで育ててあげたんだ。十分だろう」
「本物の可愛い娘も帰ってきたしな」
「生まれた時に神様に攫われるなど……本当にあってはならないことだった。愛娘を産んだことによる恩情で、母親は生かしていたが……もう要らないな。近々、処分するか」
「ああ、それがいい。無駄なものは処分するに限る。そもそも、神に奪われるなど……生贄を多く捧げたにもかかわらず、神は娘を返してくれなかった……生きた心地がしなかったな」
「だが、流石に御神木を燃やすわけにもいかなかったからな。まぁ、娘のおかげであの家を消す口実もできたし、邪魔なあの娘も消せた。あとは娘が、朱雀宮に入り込めば、完璧だ」
「乗っ取るつもりか?」
「まさか!御役目を果たせないのに、あの地位を得たところで無駄だろう」
「じゃあ?」
「子どもだよ。子どもは間違いなく、あの家の血を引く子となる。我らの冬の血と、崇高な夏の朱雀宮……間違いなく、立派な子が産まれるだろう?その子が朱雀宮を─……」
─本気で言ってるのだろうか。
それならば、あまりにも驕り過ぎな話である。
朱雀宮のことを、侮りすぎだ。
歴史が変わるから、あまり余計なことは出来ないが、あまりにも馬鹿すぎる会話に男は頭が痛くなっていた。
……これ以上、ここで隠れ聞くことも無駄だろう。
こういう馬鹿どもが、男の最愛を追いやった。
ああ、そうだ。そうだった。
どうして、見逃そうとしたのか。
歴史が変わる?大いに結構。
変えるために、男は今、ここにいるのだ。
「─……歴史というものは、いつだって弱い者は淘汰され、強き者が紡ぐもの」
氷見依月が行方不明になったとされた日から、約1ヶ月後の、ある日。
秋の宗家・桔梗家当主の耳にひとつの話が入る。
それは、氷見家の当主とその弟が不審死した現場が発見されたこと。そして、そのふたりの骸が氷漬けにされていたことであった。
「─おい、ちゃんと捨ててきたか?」
聞こえてきた声に、男はため息をつく。
何かを確認する下卑な声は聞くに絶えないが、それも【役目】の為ならば、仕方が無いと……ああ、そうだとしても耐え難い。
「勿論さ。あんな所に置き去りにされたら、ひとたまりもないだろうな」
「これまで育ててあげたんだ。十分だろう」
「本物の可愛い娘も帰ってきたしな」
「生まれた時に神様に攫われるなど……本当にあってはならないことだった。愛娘を産んだことによる恩情で、母親は生かしていたが……もう要らないな。近々、処分するか」
「ああ、それがいい。無駄なものは処分するに限る。そもそも、神に奪われるなど……生贄を多く捧げたにもかかわらず、神は娘を返してくれなかった……生きた心地がしなかったな」
「だが、流石に御神木を燃やすわけにもいかなかったからな。まぁ、娘のおかげであの家を消す口実もできたし、邪魔なあの娘も消せた。あとは娘が、朱雀宮に入り込めば、完璧だ」
「乗っ取るつもりか?」
「まさか!御役目を果たせないのに、あの地位を得たところで無駄だろう」
「じゃあ?」
「子どもだよ。子どもは間違いなく、あの家の血を引く子となる。我らの冬の血と、崇高な夏の朱雀宮……間違いなく、立派な子が産まれるだろう?その子が朱雀宮を─……」
─本気で言ってるのだろうか。
それならば、あまりにも驕り過ぎな話である。
朱雀宮のことを、侮りすぎだ。
歴史が変わるから、あまり余計なことは出来ないが、あまりにも馬鹿すぎる会話に男は頭が痛くなっていた。
……これ以上、ここで隠れ聞くことも無駄だろう。
こういう馬鹿どもが、男の最愛を追いやった。
ああ、そうだ。そうだった。
どうして、見逃そうとしたのか。
歴史が変わる?大いに結構。
変えるために、男は今、ここにいるのだ。
「─……歴史というものは、いつだって弱い者は淘汰され、強き者が紡ぐもの」
氷見依月が行方不明になったとされた日から、約1ヶ月後の、ある日。
秋の宗家・桔梗家当主の耳にひとつの話が入る。
それは、氷見家の当主とその弟が不審死した現場が発見されたこと。そして、そのふたりの骸が氷漬けにされていたことであった。