それでも、あなたを愛してる。【終】
手を繋いでいよう
「─あのね、お兄ちゃん」
妹は、ベットの上で体操座りをしていた。
壁に背を預け、膝を抱え込んで、こちらの世界に来てからずっと、自分を守るようにこの座り方をする彼女は徐に話し出す。
「そのパーティー、私も行かなくちゃダメ?」
「……」
それは、パーティーの前日。
悠生の言葉に了承していたはずの依月は何故か、今更になってそんなことを言い出した。
「どうして?行きたくないの?」
「……っ」
彼女は少し言いにくそうに、部屋の隅のドレスを見る。
「……だって、外は危ないじゃん」
子どものように、悠生がこちら側に来てからよく言うセリフを口にする彼女は、
「危ないなら、出るべきじゃないよ……」
なんて言いながら、顔を隠す。
数年も過ごせば、別れた時が赤子だったとはいえ、ある程度は分かるようになってきた。
「怖いの?」
傍により、3年間で伸びたとは思えないくらい、封印が解けたことによって伸びた妹の髪に触れる。
外に出かける時はひとつにまとめているが、家の中では結ぶこともしない彼女。
髪は銀色に、キラキラと輝いていて、彼女の神力の強さを表していた。
悠生も幼い頃、まだ、神力が最大限まで成長していなかった頃は、黒髪に3分の1くらいが銀髪だった。でも、神界に身を落とした今、依月と同じ銀色の髪が輝いており、背中に流している。
悠生は他の人間に化けれるので問題ないが、依月はそんなことは出来ないので、外に出ることは躊躇っていたが……。
(というか、契くんが心配性なのは見てたから知っていたけど、依月が公共交通機関に乗ったことないことやアミューズメントパークとかに行ったことないのが……家庭環境的に難しかったかもしれないけど、本当に過保護だったんだな……)
こちらで過ごすようになって、しみじみと実感する、先日会った妹の最愛の人。
妹がこの世界で生きていく上での希望であり、悠生が助けを求めても涼しい顔で微笑む、ちょっと怖いまだ若き朱雀宮当主の依月への愛の重さは、あの日、あの瞳を見て実感した。
「こんなの、四季の家に関係を持ちに行くようなものじゃん……関わりたくないよ、もう」
「……気持ちはわかるよ 」
悠生だって、関わりたくない。
あの日の記憶を映し出す?会場の人に知ってもらう?そんなの、両親が死ぬところをもう一度見せられるということじゃないか。
─それが、氷見を追い詰める一手になると言われてもなお、躊躇うのは、悠生の弱さだ。
この子は、このままでいちゃダメなのに。