それでも、あなたを愛してる。【終】
「でもね、氷見を止めなきゃ」
柊家がない今、これ以上、調子に乗る前に。
氷室家の悲劇を繰り返さないために、生き残りとしてやるべき事をやらなければ。
「止めるって……」
「秋の桔梗家当主夫人から、連絡が来たんだ」
悠生の弱さ等、引っかかるものじゃない。
この子の未来に、そんな躊躇いは不要だ。
(そうだよね。父さん、母さん─……)
依月だけじゃなくて、俺の夢にも出てくれないかな。会いたいよ。あんな最期、嫌だよ。
(……なんて、今考えることでもないか)
俯いて黙り込んだ依月を見ていると、彼女は震える声で聞いてきた。
「……翠が、怒ってるの?」
「翠…ああ、うん。そうだね。桔梗翠さんから連絡が来ていた」
「翠が……」
「何?何か気掛かり?」
「……」
彼女は小さく頷くと、
「昔から、契と翠が揃うとね、容赦がないというか、翠の口癖が『目には目を、歯には歯を、悪意には悪意を、暴力には暴力を』みたいな……」
なるほど。何となく、依月が言いたいことが理解出来た。─彼女は、悠生の記憶の再生を利用して、何かを企んでいるのか。
「良いんじゃない?」
でも、それは四季の家の中で生きるためには、その上に立つ人間となるには、必要なことなのだろう。
悠生の微笑みを見ると、依月は首を横に振る。
「お兄ちゃんは分かってないよ……翠って、ほら、幼なじみが多くて、身体も弱くて、一般人出身だけど、ある意味、特別的っていうか、そのせいで幼い頃、よく虐められてて……」
「うん」
「その度、凛が怒るの。契や千景達も怒って、制裁を加えようとするんだけど、その時にはもう、翠が徹底的にやり返してるというか、やり過ぎて周囲の大人が真っ青というか……」
「そう」
「まぁ、その度、彼らが権力を行使しているとか、そんな不名誉な噂を立てられないように、とか、彼女は正しい行動をしているに過ぎないんだけど、ほら、翠は身体が弱いから……」
「……」
(翠さんの身体が弱いから、なんだ……?)
妹は、かなり強かに育ってくれていたらしい。
─まぁ、氷室家の人間としては正しいんだけど。
怖いから、とかじゃないあたりが、四季の家の中で生きてきただけあるというか。