それでも、あなたを愛してる。【終】
「綺麗だよ、依月」
人気がないから、と、お兄ちゃんはそう言って微笑んでくれた。
綺麗に編み込んでもらった銀色の髪。
キラキラ輝く、星が散らばった夜空のような深い青のドレスに身を包んで、向かう先は煌びやかな、これから、地獄を映し出す世界。
「……お兄ちゃん」
「うん?」
「契に、勝手に会ったでしょう」
「……」
握った手に、少しの力が籠る。
─素直な兄だ。
自白しているようなものじゃないか。
「契からね、メッセージがあった」
「えっ」
「それだけでね、心揺らいでる自分がいるの」
泣きそうになってる。
喉が熱くて、痛くて、鼻がツンとして、目が。
それを伝えると、お兄ちゃんはどこか嬉しそうに笑って。
「……何、笑ってるの」
「ごめん、嬉しくて」
「ええ?」
「帰る場所、あるね。依月」
「……!」
「俺に、命を譲らないでよ〜困るよ」
それは、あの夢の中で両親と、彼と話した……。
「昨夜ね、夢に出てきたよ。いっぱい褒めてもらって、いっぱい泣いちゃった」
照れくさそうに笑う兄。
震えていた兄に、両親が勇気をくれたのかな。
そう思うと、お兄ちゃんに抱きつきたくなった。
「……会いたいって気持ちが少しでもあるなら、それを俺は否定して欲しくないなあ」
「……」
「心、揺らいだんでしょ?じゃあ、彼の元に戻りなよ。依月。大丈夫。昨日、父さん達と話してさ、いくつか案を考えたんだ」
「ええ?」
「俺はさ、君を救いたかった。笑って欲しかった。幸せになって欲しくて、あの森で泣く君を見ていられなくて、多くの命を奪った。でも、君は俺に攫われただけなのに、課された運命を全て受けいれて、最愛の人との別離を選ぼうとしてる」
両親と再会して、なにか吹っ切れたのか。
淡々と話すお兄ちゃんは前を向いていて、
「それは、俺の本意じゃないし、予定外だよ」
楽しそうに笑っている。
「君を守るよ。愛しているから」
「……お兄ちゃん」
「だから、依月は依月が思うままに振る舞いな?悪いことは叱ってあげるし、ちゃんと導いてあげる。─お兄ちゃんだもん」
ニッ、と、これまで見た事がない、悪戯な少年のような笑顔を向けられたのとほぼ同時、入口の扉が開かれる。
─そして、会場に目をやった瞬間、最初に目に入ったのは、その真ん中で座り込む見覚えのある人達だった。