それでも、あなたを愛してる。【終】

当主の意地




─氷室兄妹が会場入りする、少し前。

「彩蝶」

招待客は全員揃い、最後に登場した四ノ宮家当主は珍しくドレスを纏っていた。

それを肴に寄ってくる人間を捌き終えるのを待つこともなく、近寄って来た宗家の面々に、人々は道を開けた。

夏の宗家─朱雀宮当主に名を呼ばれた彼女はふわりと微笑み、彼に近付き、顔を寄せた。
小さく周囲がざわめくのが聞こえ、彩蝶は笑う。

「─どこまで勘違いさせておくの?」

「どこまでって……勝手に話を進めて、俺達は何も言ってないのにな?」

「そういうことじゃなくて」

楽しいこと、面白いことが大好きな朱雀宮家当主─契はくすくす笑い、彩蝶は呆れ笑いを零す。

「今の貴女、『権力者に群がる為、最愛と呼んだ相手を捨てた極悪人』よ?」

「─クッ」

「ちょっと、笑うのは後にして」

何が面白かったのか、笑いを殺す契は周囲に集まった幼なじみたちを見て。

「何より、翠の先日の言葉の意味!今も理解出来てないんだけど!?」

小声での抗議に、契は翠を指差した。
翠は理解しているのか、ひらひらと手を振って。

お揃いのドレスとスーツを身につけた2人の姿は、登場からすぐ、多くの人の目を引いた。

契はわざとらしく、考え込んだ顔をすると。

「─そうだな。とりあえず、こちら側が連れてきた男の手を握ってもらえば」

「はあ?」

「全てが終わったあとに説明するから。正直、合わせてもらえると助かる。あと、こちらの読み通りだと、この後、氷見の令嬢が俺に近づいてくるだろう。それを咎めず、静観してくれ」

「契がそれでいいなら……」

「いい。彼女には予め、話を通してる」

「……は?」

契は自分の言いたいことだけ言い切ると、すぐに離れていく。

この間から、人に困惑ばかり残す彼らは本当に……。

(……ああ、でも、ある意味、守ってくれているのだろうか)

なんて、こちら側に来てから、誰かに救われる願いなど、捨てたはずだったのに。


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