それでも、あなたを愛してる。【終】
「どうして謝るの?」
横に立つ契は変わらず前を見たまま、そう言った。本当に不思議そうな声だった。
「……帰りたくないなんて言って」
「?、それは謝ることなのか?」
「……あなたに貰った、恩を忘れて」
「恩だと思わなくていい。ただ、俺はお前に恋していただけだから。……帰りたくないと言うなら、その意思を尊重するよ。大丈夫。無理に抱きしめる為に、ここに来たんじゃないから」
横を見ると、変わらない笑顔で微笑んでいた。
優しい、温かい笑顔。大好きな人。
「…………私、生贄じゃないの?冬の宮、じゃないの?」
震える声だった。契は説明してくれるかな。
「お母さんが、生贄ってなあに?私、どうすれば正解だったの?私、本物じゃなくて、偽物の代わりで……あの子のお母様は?どうなったの?」
立て続けに、溢れ出る言葉たち。
涙もとうとう溢れ出て、喉は焼けるように熱くて仕方がなかった。
「私、生贄じゃないなら何?何になればいいの?ずっと空っぽで、寂しくて、苦しいの。止まっていたあの時みたいじゃなくて、姿も変わって、私」
あなたの隣にいたい。
でも、隣にいる資格がない。
姿はこんなに変わって、年齢も変わらないまま。
「─それでも、俺は依月を愛してるよ」
そう言いながら、契は手を伸ばしてくる。
「触れても?」
依月が小さく頷くと、契は嬉しそうに笑って、依月の頬を触れ、涙を指で優しく拭ってくれた。
「俺が選んだドレス、着てくれてありがとう。めちゃめちゃ可愛い。似合ってる」
「……契が、選んだの?」
「うん。綺麗だ。本当に」
優しい瞳、微笑み、触れる手。
依月が大好きな温もりをくれる人。