それでも、あなたを愛してる。【終】
おかえり
「─……久しぶり」
頭の上から、声が降ってくる。
お兄ちゃんが当主様の所へ行くことは知っていたけど、まさか、あなたがここに来るなんて。
「どうして」
震える声で尋ねたら、
「依月に、もう一度会いたくて」
と、微笑まれた。
目の前で繰り広げられた尋問のようなそれの間、お兄ちゃんが依月に話してくれた。
依月が居なくなったあと、契が何をしたのか。
それを聞いた瞬間、彼の元に駆けつけたくなった。
『彼に愛されている自覚を持ちなさい。─ね、俺の言った通りだったでしょう?』
─理解していると、思っていた。
お兄ちゃんにそう言われて、考えてたのに。
(私、全然理解していなかった)
それを突きつけられたような気分だった。
この人の愛は、依月が考える以上に重くて、深くて、それで。
「…………ごめんなさい」
お兄ちゃんが言った。
『契の言う通り、君は強い神力の持ち主だけど、生贄じゃないよ。だって、生贄なんて存在、はじめから存在しないのだから』
それは言い方が変わっただけ。
多分、昔ならば、依月はそれに値する人間なのかもしれない。
『生贄じゃない。そんなものにはさせない。都合が悪いからと言って、消されることを黙認するわけない。君は父さんと母さんが待ち望んだ子どもで、俺の可愛い妹なんだから』
お兄ちゃんはそう微笑んだ。
『それに、実は母さんがね、先代の生贄とされていた人なんだ。でも、家族に沢山愛されて育ったから、すごく幸せだったんだって。その後、母さんを狙う四季の家の人に家族を殺されたけど、復讐なんて出来るものはもっていなかったから泣き寝入りしていた時、父さんに出会ったって。絶対、幸せな家族を作って幸せになって、皆に会いに行くんだー!って笑ってた。自慢の子供達を紹介しなきゃ!って。ほんと、強くて優しい人』
『お母さんは、家族を殺されて……』
『ん。父さんは、柊家の人間でね。母さんを守る為に、婿入りしたんだよ。氷室家を根絶させない為に。だから、俺は結婚して苗字を残しておきたいんだけど……一緒に殺された感じになっちゃってて、もう普通の人間じゃないのは分かってるけど、契くんの言葉に励まされたというか、少し、あの子と話をしてみようって』
『あの子?』
お兄ちゃんの視線の先にいたのは、四ノ宮当主。
『元々、婚約者だったんだ。パーティーでひとり泣くあの子を、守りたくて。こんなことになってしまったけど、話をしたい。あんな別れじゃ嫌だからね』
─きっと、そこには依月が知らない物語がある。
微笑むお兄ちゃんはどこか、不安そうだった。