それでも、あなたを愛してる。【終】
─俺も、少し運命に抗ってみようか?といっても、それを調律するのが、俺の役目なんだけど。
恥ずかしそうに口をパクパクする彩蝶の姿は、本当に可愛い。
この照れ屋のとこ、あの時から変わってない。
「……フッ、可愛いね」
彼女の前に立ち、もっかい奪ってみた。
両の手をとって奪ったから、大きな抵抗も出来ず、彼女はまた口をパクパクさせる。
下が本当にうるさくて、特にロマンチックでもなんでもないけど、彼女は可愛いのは変わりなく。
「嫌?」
物言えなくなるくらい照れる彩蝶に問うと、首は横に振られた。─否定だ、嬉しい。
両の手の自由は奪ったまま、悠生は彩蝶と額を合わせ合い、
「これから見る全ては、何があっても気にしないこと。そして、俺が望まない限り、君は何もしないで。─約束、できる?」
彼女の綺麗な瞳が近い。
彼女の今にも泣き出しそうな表情が、幼い頃みたいで本当に愛おしい。
あそこから見ていた時はいつも、怖い顔をしていたのに。
(そっか。彩蝶に、この顔をさせられるのは、俺だけの特権か)
顔を出す独占欲を感じながら、「ん?」と返答を促すと、「頑張る……」なんて、自信なさげ。
「良し。じゃあちゃんと出来たら、昔みたいにご褒美をあげるよ」
「……なんでもいいの」
「勿論。協力してもらうんだし」
そう言いながら、彼女の両の手を解放する。
「─あ、何だかんだ遊んでる間に、向こうであいつが作ってくれたものが再生出来そうだ。ほら、一緒に見て。彩蝶。俺を守って」
ケラケラと笑いながら、彼女の腰を引き寄せて、後ろ抱きのような形でくっつくと、やっぱり安心する。ほんと、人の体温の重要性を感じる……。
「彩蝶」
悠生は記憶を見る前に、改めて伝えておこうと思った。
「?」
ぎゅう、と、後ろから抱きしめて、聞こえやすいように、彼女の耳元に口を寄せる。
「……好きだよ、今も。君を愛してる」
「っ」
「置いていってごめん。何も言えなくてごめん。君の時間を狂わせて、悲しませてごめんね」
彩蝶が、悠生の腕に触れる。
その瞬間、会場の光は消されてしまった。
見えなくなった暗闇の中、濡れるスーツの腕。
カチカチカチカチ……と、時計の針が進むような音を聞きながら、記憶の再生は始まる。
「─私も、」
小声で聞こえてきた、愛おしい声。
紡がれた言葉に悠生は微笑み、後ろから彼女の顎を持ち上げ、彼女の呼吸を奪った。