それでも、あなたを愛してる。【終】
『っ、だ、誰かっ、誰か呼んで─……』
『悠生!言うことを聞くんだ!』
ゲホッ、と、父親が血を吐いた。
見ると、お腹に穴が空いている。
涙が、震えが、声が、息が、全てが震えて。
『……庵(イオリ)が、無事だと良いが』
妹に何かをし終えた父は、血を吐きながら、壁にもたれかかり。
『……悠生、良いかい?依月の強すぎる力はすべて、封印しておいた。生贄なんて馬鹿なことを言い出すやつが現れるだろうから……っ、は、』
『お父さん!』
『……悠生、庭の泉へ。必ず、いきなさい』
その言葉には、ふたつの意味が込められていた。
『でもっ、お母さんっ、お父さんも……依月だって!』
『だいじょーぶ。僕達はいつも、君のそばにいる。依月は、守ってくれる人がいるから……』
そう言うと、血だらけの手で、悠生を抱き締め。
『愛してる。僕達の可愛い子』
額にキスされ、背中を押される─……。
庭に落ちるように駆け出した悠生は、父が話した泉を覗き込んだ。
でも、どこからどう見ても普通の泉。
泣きじゃくる、妹。
血だらけなのに、手を伸ばすお母さん。
『……っっ』
それを見ていた時、貫かれる身体。
痛いより、熱かった。
痛いより、時間が止まったような。
身体が揺れ、涙が零れ、思い出を焼く火を眺めながら、泉へ落ちていく悠生の視界を通る影─……その影が、妹に触れて、それで。
─そこで、世界は暗転した。
それは、氷室悠生が12歳の頃の話。