それでも、あなたを愛してる。【終】


─現代。

腕の中でボロボロ泣きながら、震える彩蝶を抱き締めて、悠生は目を細めた。

可愛い人。愛おしい人。
実際過ごした年数はそうなくて、人間としての戸籍ももう残っていない悠生は、本来、この世界で生きていたならば、34歳になっていた。

役目をこなすため、多くの時代を行き来したりした結果、どんどんズレて想定よりも現実との差が出てしまったけど……。

「─ねぇ、彩蝶、君もさ、泉の水を呑んだんでしょ」

「……」

「知り合いに聞いてるから、知ってるよ。俺達家族が殺された後、自分を責めて、死のうとしたんでしょう。その影響で長い間意識がなくて、雪城家に行くキッカケになったと聞いてるよ」

雪城家は、かつての冬の分家のひとつだった宮家。
刻神様を司る、ひっそりとした神社。
そこの宮司は、彩蝶の異母妹の伯父だったりする。

「……よく、覚えてないの。でも、あなたと同じ場所にいきたくて」

「うん」

「…………私、自分の本当の年齢知らないの」

「そうなの?」

「戸籍だって、なかったらしくて。必要ない子どもだったから、仕方ないけど。年齢、好きに決められるらしいんだ〜……悠生、25歳だと思ってた」

「どうして?」

普通に計算しても、合わないことはわかるだろう。眠り続け、記憶のない時期があったとしても、彼女は悠生が12歳の時に産まれた妹の存在は覚えているはず。

そして、その子と依月が結びつかなかったとしても、それくらいの情報なら、彼女は手に入れることが出来るはずだけど─……。

「知りたくなかった」

「……」

「あの夜の真実、見たくなかったの。……私、記憶がある年越し?がね、全部で23回なの。だからね、2歳上だった貴方は25だろうって……」

「23回の年越しの記憶はあるの?」

「うん。というか、実際の記憶にあるのは19回なんだけどね。他の4回は、眠っている私と写真を撮ってくれていた夜蝶(ヤチヨ)……もう1人の妹がね、証明してくれているの。でも、もう自分がどれだけ生きてるとか、そんなことはどうでも良くて、早く消えたくて、ずっと、あなたに会いたくてっ」

氷室家滅亡の夜、泉に消えていく自分の姿。
腕の中で抱きついて、泣きじゃくる愛しい人。

(─そうだね。年齢とか、そんなものはどうでもいい。結局は数字でしかなくて、今、悠生の記憶上では27回目の誕生日を迎えたばかりだし、彩蝶が23回というならば、彩蝶は23歳でいい。それを弄るだけの権力は持っているはずだし、何より、そういう所で神様らしい力を使えるはずだ)

泣く彩蝶の後頭部を撫でながら、会場を見渡す。
下手人の姿は明らかに氷見で、あの日、ギリギリまで会話を聞いていてよかったなと思う。

水に浮かびながら、ぼんやりと見上げた月。
聞こえてきたのは、父さんが言っていた依月に関する【生贄】の話。


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