それでも、あなたを愛してる。【終】
「どうして、なんて、そんなの、私の権限で持ってこさせたに決まってるじゃない」
毅然とした態度で、鼻で笑う彩蝶。
その後ろに控えながら、流れ続ける過去の記憶を眺める。
両親が事切れて、依月が泣いている声がする。
『─どうして、こんなことに』
音だけが響く会場で、
『兄の方は即死か……いや、でもそうしたら、この子は家族を全て喪うことになる。お前達の無念もあるだろう。僕の空間に招こうとしよう……ああ、でも、兄の方は』
─ドボンッ
『……綴、あとは頼むね』
─なるほど。悠生が、泉に落ちた経緯か。
『悪神の様子を見に来ただけなのに、こんな……!?待てっ、お前はその子に興味が無いはずだ!その子は生きるために!それはお前の依代にはならないっ!』
─その声を最後に、映像は途絶えた。
それを誰もが呆然と見て、言葉を失ってる。
その静寂を破ったのは、ユエだった。
「─さて、今の映像は皆様も知っている人がいるでしょう?最後の氷室家当主が第一子、氷室悠生の最期の記憶─……彼は、創世神の分身である男に泉に落とされた後、泉に住む神様─映像の中の、綴と呼ばれた─により、運命を調律する役割を与えられ、今なおも生き延びている」
ユエがこちらを見る。微笑むと、頷かれた。
「彼は役割を授かった後、生まれつき強かった能力を制御する為に、真実を知る為に、一部始終を第三者目線で“時を戻して”眺めていたところ、氷見の人間がやってきて、複数枚の契約書を、亡くなった当主夫妻の血溜まりに付けていた映像が残っていた。もしやと思い、先程の契約書を公的に検査したところ、登録されているお二人の微かな証拠を見つけることが出来たらしい。─そうだろ?絢人(アヤト)」
大勢のざわめく観客の中、淡々と無表情で出てくるスーツの男はユエに近付き、頭を下げ、彩蝶に向き直った。
「─お初にお目にかかります。柊家先代が第一子、柊絢人と申します。この度は我が家のことで御迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません。そして、【運命の調律者】様、ユエ様を、結(ムスビ)叔父様を目覚めさせて下さり、ありがとうございます。お陰様で、漸く全てを終わらせることが出来そうで……ああ、ユエ様が提示されたものは、私が直接、公的機関で検査したものです。氷室家当主夫妻のもので間違いございません」
「なっ、─で、でたらめだ!そのようなっ!」
「捕まっているのに、まだ喧しいんですね」
「妾の血筋の分際でッ、ぁ、グッっ、カハッ」
彼はニッコリと笑って、身柄が取り押さえられている氷見当主の腹を躊躇いなく蹴り上げる。
「ええ、そうです。私と妹の祖母は、柊家先々代当主の妾であり、あなた方の考え無しの押しつけ行動により、関係者全員が不幸になりました。
祖母は夫であった先々代に固執しましたが、先々代は正妻を深く愛していた。柊家の相続権利は勿論、正妻との間の子供へ与えられ、四男を産むのと引き換えに亡くなった正妻の後を追うように、先々代も亡くなられました。
長男の紫(ユカリ)様が当主になられたものの、身体虚弱で亡くなり……祖母と祖母を送り込んだものたちに命を狙われていた次男、三男、四男様はそれぞれ、婿入りなされる予定としましたが、四男様は幼い頃に亡くなられました。不幸な事故で。
それを手配したのは、氷見筆頭の派閥のものである確認は取れております。
そして、三男様はかつての分家であられた椿家の御令嬢と共に出ていかれ、次男である叶様はこの最期を迎えられております。
勿論、下手人は氷見家です。この時点で、数回処刑されるだけの刑を与えられますが、あなた方はそれに合わせ、神ですらも怒らせたんです」
淡々と、説明する絢人は、
「あなた達や祖母のおかげで、父は狂っていました。お陰様で、私達はとても苦労した……あの小さな世界を支配するだけでは飽き足らず、まさか、裏でこんなことをしてるとは。神様だと名乗る方が訪ねてこられた時、新手の宗教かと疑いましたが─……ああ、どうして、私がここまでの情報を手に入れられたと思いますか?契約があった限り、ここまで知ることは不可能です。そして、それが破棄されたのはついさっきの出来事ですね。─だから、あなた方は詰めが甘いのですよ」
蹴っていた男をもう一度強く蹴ると、その横の男の前髪をつかみ、上に引っ張りながら。
「─宗家の恥である私ですら、短期間でこれだけのことが出来るのです。あまり、宗家を舐めない方が良い。あなた方の会話など、基本筒抜けですよ。もう少し、頭を使われてはどうですか?普通の顔をして、四季の家の中には多くの神の目があることを。その意味を。その全てを統べる彩蝶様が、どれだけの人物なのかを」
「ぐ、ぐぅ……」
「父は、腹違いの兄弟に勝とうと必死でした。だから、あなた方の甘言に乗った。彼らはそんな勝ち負けなど考えていなかったし、父のことも含めて兄弟を名乗ってくれていたのに」
髪を掴んだまま、別の男の元へと投げる。