それでも、あなたを愛してる。【終】
─ひと悶着あったパーティー中断後、ゲストが皆帰ったことを確認した上で着替えた依月が控え室を出ると、同じく着替えた彼女がいた。
「久しぶり」
そう言って笑いもしない彼女にしては、珍しい清楚な格好。下ろした髪は少し乱れていて、その姿はまるで、初めて出会った時のような。
「……もう何年も前だけど」
彼女は依月に向かって、深く頭を下げた。
「あの日、貴女を殴ってごめんなさい」
─それは、あの家を追い出された。
「孤児とか、偽物とか、貴女を心身ともにいっぱい傷付けたことは忘れてない。ちゃんと覚悟もしてる。だから─……」
「─契に協力したの、貴女でしょう?華恋(カレン)」
依月は彼女の口元に人差し指を寄せ、言葉を封じて、微笑みかけた。
すると、華恋は固まって。
「契の動き、お兄ちゃんにたまに聞いていたの。私も記憶を取り戻した?感情を取り戻したのは最近で、まだ受け入れられないことは沢山で、分からないこともたくさんだけど。上手く話せなかったけど、貴女、あの夜、すごく泣きそうな顔してた。さっきだって、泣きそうだった」
「っ、だ、だって!あの夜、死んじゃったって」
「うん」
「皆、喜んでてっ!私、ちゃんと守りたかった!私にはその力があったはずなのに!母さんの祝福がっ、だから!!」
依月は両手を広げて、彼女を抱き締める。
「─一緒に勉強しよう?華恋」
「っ……」
「貴女の罪は問いません。告発に協力したとして、ちゃんと守る」
彼女の細い身体は、震えていた。
さっき、依月が会場入りをした時、この子は泣きそうな、それでいて威圧されて苦しそうな顔をしていて、変わらぬこの子が可愛かった。
「もう、私が年下になっちゃったけどさ。─私、偽物でも一応、華恋のお姉ちゃんだもん」
「っ、わ、私っ」
「うん。お母様が御無事で、本当に良かった」
依月がそう言うと、彼女は大声で泣き出した。
ずっとずっと、気を張っていたんだろう。
「大丈夫。……大丈夫」
繰り返す言葉。
背中を撫でながら、抱き締めたまま。
解放された喜びを叫ぶように泣く華恋を、依月は強く抱き締めた。