それでも、あなたを愛してる。【終】
「多分、“書き換わった”後だと思うよ。ユエを置き去りにした歴史じゃなくて、多分、いちばん真実に近い歴史になっていると思う。結局のところ、過去が上手く調律されなければ、未来は消えるでしょう?だから、『俺を理解しないで』って、皇には伝えたんだよ」
にっこりと微笑むけど、この場の誰もついていけず、それを理解しているのか、悠生は続ける。
「そうだね。俺もかなり悩んで、裁定者と話し合ったりとかしたんだけどね、そもそも、この世界には【運命】なんてものは存在しない。過去と未来が揃って始めて、その歯車は回り出す。悲しい話だけどね。……俺達の両親が死んだのも、一言で言えば、【運命】が正しく廻る為。その為に、犠牲になった」
「それは……」
「理解できないだろう?でも、本当に些細なきっかけで、未来って変わるんだ。
例えば、ユエが朝、パンを食べたとするだろう?すると、ユエがご飯を食べた道は無くなる。
そして、元々あったパンは消費されてなくなるから、その次にパンを食べようと思った人はご飯を食べることになる。もしかしたら、ご飯が苦手で、朝ごはんを食べないかもしれない。そのせいで、不調をきたすかもしれない。この場合、朝がパンだったら、この人は不調にはならなかった。─ちょっと例がめちゃくちゃだけどさ、逆もまた然り。本当に、そういう些細なものなんだよ」
「何となく、道を変える日があることも」
「そうだね。右に行くところを、その日は左に行った。もしかしたら、右で事故が起きて、それに巻き込まれていた未来を回避したのかも。事故を回避すれば、人生は大きく変わるね。命を落とすこともなく、怪我することもなく、普通の日々を続けられるね。それだけで、その人の未来は変わる。その人の未来が変わったとして、その人の周囲の人の人生も変わるでしょう。怪我で動けなくなったら、その看病やお世話がある。もし恋人がいたら、その関係の変化も出るね。ご両親はどういう反応をするだろう?その事件の責任は?とか、たったひとつの問題が、気づけば、大きな大きな問題となって、横に繋がり出す。
─俺はその全ての様々なルートを俯瞰して、今ある未来に繋げる為に手を加える立場だった。その為に、この【役目】を負った。【役目】を負うことになったのは、あの夜の事件があったからだ。─ほらね。繋がり出すだろう」
悠生は宙でくるりと円を描き、
「【運命】が正しく廻るため、大切なものを削っている人たちがいることを、どうか君達だけには覚えておいて欲しいな。─俺自身も、かなり邪な考えから、この【役目】を受け入れたんだけど」
横にいる彩蝶に優しく微笑みかけて、その微笑みが全てを物語っているようで。