それでも、あなたを愛してる。【終】
「─凛くんのお父様はね、元々、四ノ宮家の奴隷のような存在だったんだよ」
「えっ」
「驚くよね。これは、凛くんのお母様が変えた歴史の話。俺達も見ていて驚いた。『あの人は渡さないから』って、泉越しに宣戦布告された時は……うん、敵に回したくないなって感じたよ」
「会ったこと、あるんですか……」
「勿論。凄く強くて、格好良い方だよね。凛くんとは目元が似てるのかな」
そう言いながら、サラサラと分かりやすく、四ノ宮家と桔梗家の家系図を書き出す悠生。
「基本的にね、神様は人間と関係を持てない。けど、俺の場合は人間として死んですぐに悪神が、俺の心臓を侵食しようとしたから、完全には人間として死にきれないまま、あちら側に身を落としたんだ。だからね、刹那としてだけど、直接会ったこともある。泉から声をかけても、人間には届かないから。裁定者の代理、みたいな形でね。話したことがあるよ。本当に格好良い人だった」
「でしょうね」
心当たりしかない母親の行為に笑う凛に、
「ハキハキと物事を話される方だったよ。そして、四季の家の中では初めて確認出来た、【未来予知】をされる方だったかな。だから、頭を撫でられた。─『子どもは大人に守られていなさい』って。その時代、俺は生まれてなかったのに。知っていたんだ。俺を、氷室の子どもだと」
悠生が零したそれは。
「……怖い話だろう。彼女は氷室があの結末を迎えることを分かっていて、それを阻止するか悩んでいた。何故なら、それを阻止すれば、俺は【調律者】として存在しなくなるからだ。俺が【調律者】にならなければ、いろはさんの知る美言はもっと使われ、衰弱死していた。そして、美言が衰弱死なんて結末を迎えると、その伴侶である裁定者がその家を滅ぼしていた。家が滅ぼされると、簡単に言えば、彩蝶が存在しなくなるね。勿論、いろはさんや皇くんも。でも、同時に俺の存在も消えてしまうだろう。俺が消えてしまえばね、裁定者自体も消えるんだ」
「「「「……」」」」
一気にややこしくなった話に、いろはが目を回す。彩蝶も考えが追いつかず、目を瞬かせ。
それを見た悠生は書いた紙を見せ。
「─説明が難しいんだけど、裁定者は元々人間でね。美言と愛し合っていた。でも、身分とかで引き離されたんだったかな。殺されたんだ。そして、泉に捨てられた。その時の憎悪がね、悪神に気に入られて、あの空間で生きていたんだ。でも、本当なら悪神に気にいられた時点で、人はその負荷に耐えられず、魂を取り込まれる。だから、俺はその時代に降り立って、悪神を身に宿すものとして牽制し、あの空間で馴染めなくて死にかけた彼に【役目】を与えた。
【役目】を与えたことで、あの空間の中でも裁定者は生き抜いてくれて、ユエが孤独だった時代とかに行き、置き換えを行ってくれた。
ユエが『暗いな』と思って生みだしたもの、『眩しいな』と思って生み出したもの、『生活にメリハリが欲しいな』と思って生みだしたものとか、『水が降るなら上からが助かる』と思ったりしたもの、その全てが理を生み出すものだったからね。その結果、人間が誕生して、その人間に見つけられて初めて、ユエは自分の存在を認知して、さっきの話に繋がる。祀られたりするんだ。
人々は何となく、幼い頃から聞かされる話で、ユエを神様だと思っていたけど、神様への認識が浅すぎて、神様へは供物が必要だという思いから、生贄という伝統が始まって、ユエはそれを受け取ってなかったのに人間の争いに巻き込まれ、化け物して扱われるようになって、生まれた森に引っ込む羽目になった。
そこで、人々には想定外なことが起こるんだ。ユエが引っ込んだことで、加護が森に移動した。そして、自然が人々に襲いかかったんだ。望めば雨が降り、望めば晴れる世界で生きていた人々は、四季の存在を受け入れられず、多く死んでいった。そこに、たまたま迷い込んだのが、凛くんのお父様」
「迷い込んだ?」
「うん。凛くんのお母様が死の間際、お父様と契約を交わされてね。崩壊していく世界を見たけど、自分はそこまで生き抜けないから、と、託されたらしい。いちばんは二人の間の最愛の子供達を守ることだけど、二番目に世界を救って欲しいって。だから、彼は妻から聞いていた、凛くんが翠さんを取り戻すために行った時の旅の代償を、代わりに負う道を選ばれた」
凛は目を見開いて、「でも、あの人はそんなこと……」と、呟く。