それでも、あなたを愛してる。【終】



「─悪い。この空気、なかなか慣れないよな」

自由人すぎる奴らを見ながら、契は彼の横に移動した。すると、小さく微笑んで。

「……昔から、にいさん、悠生は誰からも愛される人でした。可愛がられて、そして受けた愛を、他人に惜しみなく与えてくれる。あの人に沢山救われて、だからこそ、氷室の件は悔しくて。悠生兄さんが戻ってきて、今、幸せそうに笑っていて、その姿をそうして眺められているだけ、俺は果報者だと思います」

「本当に、悠生が好きなんだな」

「ええ。命の恩人のようなものですから」

父親から虐待されて育った彼は、そのせいで母親も喪ったと聞いている。
詳細を調べたら、また違うのかもしれない。
でも、彼が家を憎んでいたことは事実だ。

「俺はあとひとり、大切な人が幸せになる姿を見るまでは死ねないので、今日はその交渉に来たつもりだったのですが、彩蝶様もとても楽しそうで」

「ああ……昨日みたいなあいつを期待しても無駄だから、軽い気持ちで聞いていた方が良い。多分、あの場の流れであんなふうに伝えただけで、そんな酷いことは言われないよ」

「ですが、極刑であってもおかしくない身です。この国では死刑を禁じられていますが、四季の家は例外ですから」

「それはそうだけど。……何もしてねぇだろ?」

「多分、してませんけど」

「じゃあ、いいじゃん。どっちにしろ、彩蝶の決定には基本、逆らえないんだ。昨日、宣言してただろ。紫苑が帰ってくるまでは、柊家を守るのだと。なら、守って見せろよ。もうひとりの大切な人、紫苑も喜ぶぞ」

ニッ、と、笑いかけると、彼は目を丸くしたあと、優しく微笑んだ。

「……ありがとうございます、契様」

「あー、いいいい。そういうの、要らない。契でいいよ。一応、同じ家格だろ」

「いや、でも、俺は愛人の孫ですし」

「そんな堅苦しいの、どうでも良いよ」

「え……」

「じゃあ、表舞台だけ。表舞台だけ、気をつけて。じゃないと、悠生に言うぞ。『絢人がよそよそしくて、気まずい』って」

「やめてください」

「アハハッ、じゃあ、そう呼んでくれ」

柊絢人は、かなりのインドアらしい。
だからこそ、これまで異性との付き合いもなく、本の虫すぎて表には出てこなかった。

最近、いつも通り、紫苑の帰りを待っていた時、外での異変に気づいて動き出したという。

それにしてはあまりにも有能だが、その流れで死んでしまったと思っていた悠生とまで再会できて、嫌悪していた家族(?)が捕まり、自由の身となったのだから、絢人の喜びはひとしおだろう。

「─契」

「んー?」

「悠生兄さんが行ったこと、多分、もっとあります」

「うん」

「俺たちが考えつかないくらい膨大で、多分、両手両足じゃ数え切れないくらいリセットされて、それでいて平然としているあの人は昔、『化け物』と言われていました。それを知ってもなお、笑顔でい続けた兄さんを俺は尊敬していて……彩蝶が説明してって言ったけど、ざっくりとしか話さず、誤魔化したのは多分調律を乱さない為。今だってもう、笑ってふざけてる。─兄さんはこちらの世界で幸せになれますか?彼女の隣で、彼女の夫として、こちらで」

それは、絢人からの問い掛けだった。
大切な兄のような彼の、幸せを願う声。

契には分からない。
そこは、人間としては管轄外だからだ。

契が視線を投げると、それに気づいたティエが傍によってきた。

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