それでも、あなたを愛してる。【終】
第九章☪ それでも、あなたを愛してる。
─着いた先は、見慣れたマンションだった。
高くて、大きくて、それは、一緒に住んでた。
「……まだ、ここに住んでたの?」
車から降りてきた契は、依月と同じようにマンションを見上げて。
「うん。ひとりであの部屋は広かったな」
と、笑った。
「行こう。部屋は綺麗になってるから」
3年前の話をしているのか。
リビングの家財一式、破壊したという……胸がキュッとなって、目の前の彼を抱き締めたくなる。
でも、それはダメだから。手を伸ばして、服の裾を掴むと、契は驚いた顔で振り返った後、依月の手を絡め取り、
「掴まえた」
と、悪戯っ子のように。
(ああ……やめてほしい)
契といると、自分の汚さを思い知るの。
あなたの隣にいる資格なんて失ったと思ってるのに、だから、離れたいと願っているはずなのに、あなたが誰かに同じように笑顔を向けることを考えたら、それを嫌だ、なんて。
(……なんて、なんてわがまま、なんだろう)
自分が契のそばにいれないと思い出した理由は、いっぱい色々とある。でもいちばんは、感情が芽生えたせいで不安で仕方ない日々を過ごしてる現在、彼に余計な負担を与えたくない思いが強い。
迷惑をかけたくない。迷惑だと思われたくない。
依月を愛してくれていた思い出を抱えたまま、あなたには別の人と幸せに。なんて、頭で考えて、心は拒絶して。
「……」
手を引かれたまま、エレベーターに乗り込んだ。
会話はない。
昔からずっと、契に手を引かれる人生。
歩く道に石ひとつないように、守ってくれた人。
『愛している』と言えたじゃないか。
ずっと言いたかった言葉を、心から。
やっと伝えられた。
(─それで、十分じゃない)
音が鳴り、部屋のある階に着く。
広くて各階2部屋しかないこの高層マンションは、丸々、朱雀宮の家の持ち物だ。
数多くある不動産のひとつで、全面ガラス張りの窓から見る、夜景は本当に綺麗。
そんな夜はたまに、蝋燭だけ灯して、契が作ってくれた料理を食べる日もあった。