それでも、あなたを愛してる。【終】


「─お邪魔します」

鍵を開けた契に続いて、部屋に入る。
手が離れてしまったのが少し寂しくて、そんなんでこれから先、どうするつもりなのか。

「……まだ、依月の家だよ。おかえり、依月」

自分の弱さに泣きそうになってると、寂しそうな顔をした契がそう微笑んでいた。

それを見るだけでまた、心が痛い。

「…………ただいま」

躊躇いがちにそう言うと、彼は小さく頷いて。

「前みたいに、まだ依月の家なんだから。好きに寛いで。少しお茶飲んで、横になろうね」

(……小さい子どもに、するように)

優しくて暖かいもので包むように、大事に、大事にしてくれる契。
契の愛情は温かくて、優しくて、いつも泣きそうになる。

ふたりで一緒に選んだソファ。唯一無事だったのか、リビングの他の家財は全部、見知らぬものになっていたけれど。

ふかふかのそれ。二人でよく座った。
寄り添って、映画を見て。
依月が手を伸ばすと、契が甘やかしてくれた。

幸せだった。素直に話せなかったけど、感情を出せなかったけど、愛してる、の一言ですら、満足に伝えることは出来ない日々だったけど。

契の婚約者になって、苦しかった日々なんて無かった。

あなたの腕の中が、安心する場所。
依月の帰る場所。
─でもそれは、甘えでしかないのだと自覚してしまった。守られるだけの関係なんて、上手くいかないのだと気付いてしまった。だから。

寝室関連のものが仕舞ってある物置に契が向かったことを確認して、自分の部屋として与えられていた部屋を覗いた。

何も持っていなかったから、契に与えられた家財やプレゼントしか置いていない、依月の宝箱。

滅多にここで眠ることはなかったけど、契が出張でいない日とか、そんな日は契の部屋から持ってきた契の服を勝手に着て、この部屋で寝てた。

「……どうして、全て捨ててくれないの」

何年もこのまま、でも、埃も積もってない様子からして、掃除はされていたのだろう。

ずっとずっとずっとずっと。
……胸がきゅうっとなって、苦しくて痛くて。

お水かなんか飲もうとキッチンに向かった依月はキッチンを見て、足を止めた。

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